
三日経った。
食事や睡眠のために、山を下りたり登ったり、マルは一人で繰り返していた。
ソレイユのいる森が深いので、急な斜面で滑ったり、怪我をしてしまうかもしれない。
危ない目に合わせたくない、と言って、マルはカナを同行させてはくれなかった。
私なら大丈夫、そう言おうともしたが、優しい気遣いを尊重し、今は待つことにした。
カナは、自分の仕事を再開した。
山を守るバリケードの前で、人の侵入を防ぐ監視を、係員として続けた。
集中しているマルの邪魔にならないよう、連絡を取ることはしなかった。
取り合わなくても、心が離れてしまうはずがない。
秘密を共有し合うことで、前よりももっと、深くて強い絆を感じた。
私は、あの人を守っていこう、とカナは誓った。
自分の死が来るその日まで……それは、いつの日かは分からない。
この前のように、空からの火で急に殺されるかもしれない。
でも、それが死因になればいい……とカナは一人、密かに思う。
間違った考え方かもしれないけれど、そう願う。
この先ずっと、私は彼の近くにいるだろう。
彼と一緒に、同じ時に、同じ場所へゆくことができる。
マルは、目を閉じて座ったまま動かないソレイユに、頭を悩ませていた。
ソレイユは、薬を守れなかったことで、絶対とされていた命令がやぶられた。
何かのタガが外れた、歯車の噛み合いが取れた、他にも言い方はいろいろとある。
ソレイユはただ、目を閉じたまま、よく通る声ではっきりと言った。
「予期せぬデータが発生しました。プログラムを初期化しますか?」
壊れたコンピューターのようだった。
マルは、その質問に「はい」と答えれば、ソレイユがまた目を開くことは知っていた。
しかし、それは以前のソレイユではなく、何の情報も記憶もない、マルのことさえも分からなくなってしまう、完全にリセットされたロボットだった。
ソレイユの前に立って、マルは何度か命令をした。
「目を開けろ。立ち上がれ。俺を見ろ」
しかし、命令を受理させることができなかった。ソレイユは依然として目を開けず、
「メモリがいっぱいです。情報を削除しますか?」
と、言った。
ソレイユの口から、いったい何の情報を削除するのか、選択肢が出てこなかった。
マルはその隣に腰を下ろした。
大木に背をつけて、同じように目をつむる。
大きな葉が頭上で揺れる。耳をかすめる静かな風の囁き。遠くで歌う鳥の声。
マルは、この森でずっと一人だったソレイユのことを、思った。
彼は、この大きな森で、たった一人きりで、秘密を守り続けていた。
世界中を駆け巡り、多くの人の波に流され続けてきた自分と、まるで真逆だ。
けれど、太陽によって限りなく生かされ続けるその境遇は、マルと似ていた。
孤独だったソレイユと、孤立していた自分。
寂しい思い出は、もういらない。
彼を救ってやるのは、造り出した俺の使命だ。
「削除します」
マルは言った。
ソレイユは、それから一言も発せず、目も閉じたまま、動かなかった。
ソレイユの中にあった、すべての情報が削除されたのだった。
基板は電気信号を送る機能を止め、カウントしていた時をも消した。
ソレイユは、この世から解放された。
マルは目を開けて、その顔を静かに覗いた。
やっと眠りにつくことが許されたような、安らかで、とても美しい顔だった。
◆ E N D


結末から振り返ると、
タイトルの通り主人公は
ソレイユだったんだなーと思うと同時に、
他のどの登場人物も興味深く映ります。
取り分け、最初はただの営業マンだった
丸本が長い年月を経て、マルに生まれ変わり
カナと出会いソレイユの森を再訪する展開は、
晴れ渡った青空のような余韻を残します。
読後は穏やかな気持ちになりました。
今後の作品も楽しみにしています!


今日は、岡山からのお便りどすねんよぉ
素敵なブログですねぇ
ブログ村にも投稿されてるんですねぇ
応援させていただきました。
懐かしいです、私も何年か前まで投稿してましたえぇ
良かったらまたお越し下さいませねぇ

一気に読んだ!
素晴らしい!
それしか言葉が、でない。

まるで映画を観ているような感覚でした。
ラストは、すがすがしい読後感でいっぱいです。
他の作品も、ちょくちょく読ませて頂きますね。

追い続ける「不老長寿」の行き着く先と愛による救済・・・
妙なる物語に、一気に読み切ってしまいました。
またこちらに訪問させて頂きます♪



