歌うように揺らめいて、何層にも重なって聞こえる、アコーディオンの不思議な音色。
路上で演奏するお爺さんの近くで、リカはワゴンを出していた。
町の看板や、家々の軒下に光る、イルミネーションに負けないくらい、リカのワゴンは華やかだ。
この広場ににぎやかに光る、虹色ストライプのネオン。
後ろの教会の奥からは、賛美歌が聞こえる。
幼い聖歌隊の子供たちが、この日のためにと練習していたのを、リカは知っている。
毎日、この場所で営業していたからだ。
今日は風も出ていない。
丸いキャスケットの帽子を押えて、リカは澄んだ夜空を仰いだ。
自分のワゴンから伸びる風船が、ゆったり揺れるその向こうに、きれいな半月が浮いていた。
空気はとても冷たかったけど、人々の心には、熱い気持ちが満ちている。
夜空に光る星々のように、その目は生き生きと輝いている。
今日が特別な日だからだ。
「リカー、クッキー焼いてきてあげたわよ。食べるー?」
店長がうかれた声を上げながら、リカの元までやってきた。
ふわんふわんのドレスを着て、手に大きなプレート皿を持っている。
お皿の中には、かわいくデコレーションされたジンジャーマンのクッキーが並んでいた。
「店長、お店のほうはどうしたんですか?」
「いいじゃないのよ。ちょっとあなたも、こっち来なさーい。あたしの友達、紹介してあげる」
店長に腕を組まれて、リカは「はぁ……」とため息をついた。
「ほら、みんなー。あたしのカートよ、ステキでしょー?」
店長の呼びかけで、通りの角から、何人かの群れが現れた。
みな、店長と同じタイプの人のようだった。
「あら、ステキ」「かわいいわねぇ」「いろいろ売ってるじゃないのー」
太い声で口々に誉めた。
リカは隣の奏者のお爺さんと目を見合わせて、仕方なそうに笑った。
店長のお皿からチョコチップ付きのジンジャーマンをひとり連れ去ると、口の中に放り込む。
どうやらリカにとっては、今日は特別な日になりそうもない。
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