2017
12.20

月のライン 7-1

Category: 小説

 ジンジャーブレッドマン

 歌うように揺らめいて、何層にも重なって聞こえる、アコーディオンの不思議な音色。

 路上で演奏するお爺さんの近くで、リカはワゴンを出していた。

 町の看板や、家々の軒下に光る、イルミネーションに負けないくらい、リカのワゴンは華やかだ。

 この広場ににぎやかに光る、虹色ストライプのネオン。

 後ろの教会の奥からは、賛美歌が聞こえる。

 幼い聖歌隊の子供たちが、この日のためにと練習していたのを、リカは知っている。

 毎日、この場所で営業していたからだ。

 今日は風も出ていない。

 丸いキャスケットの帽子を押えて、リカは澄んだ夜空を仰いだ。

 自分のワゴンから伸びる風船が、ゆったり揺れるその向こうに、きれいな半月が浮いていた。

 空気はとても冷たかったけど、人々の心には、熱い気持ちが満ちている。

 夜空に光る星々のように、その目は生き生きと輝いている。

 今日が特別な日だからだ。

「リカー、クッキー焼いてきてあげたわよ。食べるー?」

 店長がうかれた声を上げながら、リカの元までやってきた。

 ふわんふわんのドレスを着て、手に大きなプレート皿を持っている。

 お皿の中には、かわいくデコレーションされたジンジャーマンのクッキーが並んでいた。

「店長、お店のほうはどうしたんですか?」

「いいじゃないのよ。ちょっとあなたも、こっち来なさーい。あたしの友達、紹介してあげる」

 店長に腕を組まれて、リカは「はぁ……」とため息をついた。

「ほら、みんなー。あたしのカートよ、ステキでしょー?」

 店長の呼びかけで、通りの角から、何人かの群れが現れた。

 みな、店長と同じタイプの人のようだった。

「あら、ステキ」「かわいいわねぇ」「いろいろ売ってるじゃないのー」

 太い声で口々に誉めた。

 リカは隣の奏者のお爺さんと目を見合わせて、仕方なそうに笑った。

 店長のお皿からチョコチップ付きのジンジャーマンをひとり連れ去ると、口の中に放り込む。

 どうやらリカにとっては、今日は特別な日になりそうもない。



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