
ロイは昼前にフェリーに乗って島へ上陸した。
海沿いのフラワーショップ・ナヤを通り過ぎ、目的地へ足早に向かう。
冷たい潮風がコートの裾を翻した。
リボンの装飾が浮き彫りにされた看板の、小さなお店。
ショーウィンドーに飾られた華やかなツリーに見向きもせず、ロイは入口ドアを開けた。
「いらっしゃーい」
陽気な出迎えの声がした。
店の店長がひとり、レジの前に立っている。
男なのに女物のエプロンを巻いて、顔にも強い化粧をしている。
長いまつ毛をつけた目が、ロイを品定めするかのように、じっとりと動いた。
「リカはいますか」
ロイが聞くと、店長は両手をパチンと叩いて、低い声でまくしたてた。
「ロイじゃないの! 島には帰ってきていたの? リカを心配させるんじゃないわよ。電話にも出てくれないって、スネてたわよ」
この島には珍しいニューハーフの店長。2階で一緒にリカを住まわせているというが、男にしか興味のない男なので、ロイはだいぶ安心していた。
「リカはいますか」
ロイはもう一度、同じセリフを突きつけた。
店長は片手をあごにかけ、微笑んだ。
「教会前の広場にいるわ。カートを出して、店番してもらってるの」
「ありがとう」
簡単にお礼を言って、ロイは店を出ようとしたが、不意に立ち止まり、店長を振り返った。
「先日のアクアアルタは、手伝いに来れなくてすみません」
いいのよ、という感じで、店長は笑いながら、片手をロイに振ってみせた。
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