
「ねぇ、お母さん」
「なぁに、ぴよちゃん」
「またあのおじさんが来て、わたしを連れてゆくのよ」
「そうね。でもぴよちゃんだけじゃないでしょ、みんなもでしょ?」
「うん、そう。たくさんのぴよを、大きなサクに入れて、それからたくさんの子供たちが来て、追いかけるの」
「それはぴよちゃんたちがカワイイからよ」
「でもとっても怖いよう。お母さん、今日はサクの側にいて、ぴよちゃんたちを見ててね」
「わかった、わかった。あっ、ほらぴよちゃん。今日もあのおじさんが来たわよ。いってらっしゃーい」
「ぴよぴよぴよ」
「やあ、みんな! 今日も元気かな? さあ、こっちへ集まるんだ。『子供たちひよこ触れ合いデー』が始まるよ。お母さんたちは、ほら、このエサでも食べてタマゴでも産んでなさい」
「コケーッ、コッコッコ」
「あっ、お母さんどこへゆくの。ぴよちゃんを見ててよー!」
「見てるわよ、ほらね」
「うそ、見てないじゃない」
「見てるってば。あー、おいしいわねぇ」
「もう、お母さんたら」
「さあ、子供たち、ひよこを優しく触ろうね!」
「わーい」
「わー、かわいいー!」
「ちっちゃーい!」
「ぴよぴよ鳴いてるー!」
「あ、こら待てー」
「わー、ふわふわしててかわいーよー」
「あたしにも触らせてー! わー」
「えーん、お母さーん!」
「あら、どうしたのぴよちゃん」
「えーん、人間の子供たちが、ぴよちゃんをふかふかするよー!」
「まあ、抱っこされてて、いいわねーぴよちゃん」
「えーん、怖いよー、えーん」
「もう、ぴよちゃん。そんなに泣かないの! お姉ちゃんでしょ!」
「えっ、お母さん、またタマゴ産んだの?」
「お母さん、いくらだって産むわよ、コケッ!」
「あっ、タマゴだ! わーい、わーい」
「あっ、タマゴだ」
「あっ、おじさん! それはうちの子……」
「今日は卵かけご飯だな」
「えっ、待ってくださいな、おじさん!」
「ひよこもそろそろ、貰い手を探さないとなぁ」
「あらま、ぴよちゃん! もうお嫁に行くの?」
「えーん、イヤだよー!」
「ねえ、おじさん」
「何だい、たろうくん?」
「あのね、はなこちゃんが、ひよこのハネをむしってるよ」
「えっ! それは困るな! はなこちゃん、やめなさい」
「おじさん、はなこちゃんはあっちだよ」
「あ、そうかい? はなこちゃん、はなこちゃん」
「あっ、お母さーん、助けてー!」
「どうしたのぴよちゃん!」
「人間の女の子が来るよー!」
「はなこちゃん、やめなさい」
「キャー!」
「ぴ……ぴよちゃん!」
「……あーあ、はなこちゃん。ひよこを踏んじゃいけないな」
「はなこちゃん、いけないんだー」
「あー、はなこちゃん、どうしたのー?」
「えー? ひよこさんかわいそー」
「かわいそー」
「ねー!」
「ねえ、みんな、おじさんの所に集まって!」
「なに、おじさん」
「なに?」
「このひよこさんをこんな風にしちゃ、いけないよ。みんな、よく覚えておくんだよ。ひよこは優しく触ろうね! わかったかい?」
「うん! わかった!」
「はーい!」
「よし、じゃあ戻っていいよ!」
「わーい」
「わーい」
「さてと……今日は卵かけご飯と、雛鳥の肉の夕食か。また定番メニューになってしまったな」
◆ E N D


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