2017
12.24

ソレイユの森 2 温室栽培

Category: 小説


 山奥の開けた土地に、その廃墟を発見したのは、偶然だった。

 人通りのない獣道を通って、山頂付近まで歩くと、突然、視界が開けた。

 雑草が生い茂る地面の所々に、赤茶けたレンガが埋もれていた。

 レンガの道のその先に、崩れかけの古びた洋館が建っていた。

 外国人の別荘のようだが、すでに住居として使われていないようだった。

 ツタが伝った壁や屋根は、コケに黒く汚されている。

 窓は割れ、ボロボロに擦り切れたカーテンが、強い風にあおられている。

 終着点だ、と、周一には思えた。

 ここで終わり、新たに生まれ変わる所。

 人里離れたこの場所で、再び一からやりなおす。

 人間不信の自分には、最も適した住処じゃないか。

 こんな場所に辿り着けたのは、自分にとって必然だった、そんな強い考えが、頭の中を支配した。

 誰の物でもなく、もはや市の抱え物となっていたその家と土地とを、周一は何のためらいもなく買い取った。

 修理屋を呼び、草を刈り、家具を新たに入れ直し、部屋をきれいに改装したところで、通帳の残高に不安が見え始めた。

 しかし、心は熱に燃えていた。

 心機一転。新しい土地と新しい家、そして新しい自分。

 今までの自分を忘れよう。

 周一は、年老いた親にも、親戚にも、他のどの知り合いにも、引っ越しの手紙は、一通も出したりしなかった。



 広いリビングは、ラボのようにリフォームしていた。

 大きな机に、試験管、ビーカー、フラスコ、顕微鏡など、一通りの実験機材を並べて、作業した。

 新しい白衣を身にまとうと、気が引き締まった。

 庭や山で採れる野草、園芸店で買い集めた草花などを、新たな研究の材料にすることに決めた。

 明かり取りのため、もともとあけてあった造りの中庭に、ガラス張りの温室を建てた。

 山の家には、遮るものが何もないので、容赦なく陽が降ってくる。

 プランターに必要な苗木を植え、それを乾燥から枯らさないよう、定期的な水やりをして回らなければいけなかった。

 周一は、寝る間も惜しまず、働いた。

 働いても働いても、まだ一銭にもならない。

 ただ以前の職で、給料が潤沢だったことを幸運に思った。

 毎日、毎晩、飽きることなく、一心不乱に、作業するのみの日常生活。

 その姿は、どこか狂人じみていた。

 大きな窓から、闇夜に漏れる、白熱灯。

 時の経過に従って、温室の中に、苗木から芽吹いた花々の香りが広がっていた。



● NEXT → ソレイユの森 3 訪問販売






このエントリーをはてなブックマークに追加 follow us in feedly


にほんブログ村 小説ブログへ
関連記事
トラックバックURL
http://riemiblog.blog.fc2.com/tb.php/79-44e5968e
トラックバック
コメント
メリークリスマス!
senri32 dot 編集
管理者にだけ表示を許可する
 

ポイントでお小遣い稼ぎ|ポイントタウン


back-to-top