2017
12.21

月のライン 8-2

Category: 小説


ホテルの大きな窓ガラスを、キトは掃除していた。

日差しが肌に暖かい。

マリは捕まってしまったけど、キトには今、ナヤがいる。

毎日、午後には、畑の手入れをかねたデートだ。

キトはいつも以上に丁寧に、窓を磨いた。

そこから表を眺めると、ホテル入口へ続く、短い階段を、
ゆっくりと上ってくる男を見つけた。

キトは急いでロビーへ向かった。

大きなドアが開き、男が入ってくる。

相変わらずの、黒いスーツに銀縁眼鏡。ラジだった。

「おかえり、ラジ」

キトは笑いかけながら迎え入れた。

「ただいま戻りました」

ラジの口元も笑っている。

ラジは本土と島を、行ったり来たりしている毎日だった。

マリと町長、そしてセドによる幻想花の流通をあばいたあと、本土で対策本部を立て、
警察官たちと一緒に、ノエル翌日の突入を計画していたのだ。

計画は念入りにと重ねられた結果、この島の評判を落とさないかわりに、
幻想花に関わっていた、全ての人たちの真相を隠す、という手段にいたったのだった。

幸い、町長を脅してデラの居場所を吐かせるという、当初の計画は無用だった。

町長は改心して、自ら居場所を教えたからだ。

しかし、いくら真相を隠してもらえたからといっても、罪は重い。

町長、マリ、セド、そしてロイの4人には、それなりの懲罰が与えられるだろう。

デラの組織を検挙したといって、ラジもすぐさま、警察から解放されることはなかった。

これからも正しい側の立場につき、二度とこのようなことを起こさないためにも、
島の警備を任命されたのだった。

午前中は本土の警察署。そして午後からは島の警備にと、
ラジはその身を使われることを、了承した。

島での主な活動拠点は、ホテル・モンフルールだった。

観光客のもっとも集う場所として、あてがわれた。

口に出しては言わないが、それを一番喜んでいたのは、キトだった。

落ち着いた大人のラジには、どんなことも相談できるし、
頭も良いので、的確なアドバイスもしてくれる。

ラジは手持ち無沙汰のように、両手をこすり合わせ、周囲を見回し、
そして手の平を広げて見せながら、キトに向かってこう言った。

「さて、お坊ちゃん。何か手伝うことはないですか?」



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