2017
12.20

月のライン 7-3

Category: 小説


すぐ目の前に駆けつけた、メルの問いかけるような視線を受けて、ロイは小さな声で答えた。

「メルがなぜここにいるのか、俺には分からないが、
 今ここでメールボーイに会えたことは、俺にとって好都合だ。
 聞きたいことがあるんだろう? そこに座ってくれ」

メルはロイと一緒に、近くのベンチに腰掛けた。

街灯の明かりが、2人の上から降り注ぐ。

「リカも心配してるんだ。お前のことが好きだからだよ」

メルがロイに訴えた。

「僕が知らなかったとでも思っているのか? もう何年一緒にいるんだよ。
 小学校のときからの友達だろ。悩みがあるなら、打ち明けてくれ。
 言えないのなら、手紙でもいい。僕に、届けさせてくれ」

するとロイは、コートの内ポケットから、一通の封筒を取り出した。

少しほっとしたメルに向かって、ロイは差し出す。

「同じことをしても、効果がないのは分かってる。だけど俺には、こうするしか他にない。
 自分で渡そうと思ったが、メル。この手紙を、町長の元に届けてくれ」

「町長に……?」

メルは手紙を受け取った。

「仲直りの手紙なら、喜んで配達するさ」

その言葉に、ロイは悲しそうに笑った。

「そうじゃない。俺は父親の愛を確かめようとしているんだ。
 メル、不思議に思ったことはないか? なぜ、俺たちは同じ小学校に通っていたんだろう。
 お前は本土で生まれたから、当然、地元の学校に通う。
 だが俺は、毎日、島からそこへ通った。どうして。島に小学校があるにもかかわらず、だ」

ロイが急に饒舌に語り出したのを、メルは驚きながらも聞いていた。

ロイは言った。町長が小学校の裏の畑で、幻想花の栽培をさせていたこと。

本土のマフィアに横流しするかわりに、金銭を受け取る。

その汚い金で、この島は成り立っている。

アクアアルタから町を守るため、防水壁を建てるためだとしても、
ロイは黒いものが許せない。

父を認めない。

「警察に……」

と、立ち上がったメルの袖を掴んで、ロイはまた座らせた。

「警察に通報するのはやめてくれ。この島がメディアにふれると、観光客も減る。
 島民はやっていけなくなるだろう。それだけは何としても避けなければ」

深刻な顔をしてロイが言う。メルはもう、何も言葉が出なかった。

「封筒の中に、幻想花の花びらを入れておいた。俺が本土で、夜中に買い取ったものだ。
 親父の言っていた通り、本当に密売していたんだ。
 前にも同じのを送ったが、今こうして、俺の捜索願いが出ていないとこを見ると、
 親父の俺を思う気持ちは、もうなくなってしまったのかもしれない」

ロイは悔しそうにうつむいて、両手で自分の頭を抱えた。

「それでもまだ、俺は信じることを捨てきれないんだ。
 自分の息子を、幻想花の側で育てたくなかった父の、そのときの想いを、呼び戻したい。
 手を引いてくれることを信じてるんだ。
 自分の息子が、幻想花の被害者になることに、耐えられる親がいるだろうか?」

ロイはかぶりを振って立ち上がった。

「見ろよメル。この町の幻想を。
 美しい町並み。きらびやかな光。維持しているのは、犯罪者だ。
 俺たちは知らずに、ただ表面だけの幻を見ていたんだ」

そして、ロイはポツリと言った。

「変えられないなら、海に沈んだほうがよっぽどマシだ」



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