2017
12.20

月のライン 7-2

Category: 小説


 町役場の広場の中央に、小さな回転木馬が設置されていた。

 馬の数は5台しかない。サーカスのゾウのように、体中に派手な模様をペイントしていた。

 メルは自分のかたわらで、満足げにそれを見つめる、父の横顔を見た。

 メリーゴーランドの張り出た屋根に、ピカピカと点滅するライトが光る。

 父の顔を明々と照らす。

 よくこの短期間のうちに仕上げたものだ、とメルは思った。

 たぶん、父の手柄じゃない。技術職人が頑張ったのだ、と分かっていた。

 それでも、父の嬉しそうな顔を見ると、メルもまんざらでもなく、胸を張りたくなる気持ちだ。

 馬の目の中に電飾がつかなくてよかった、と心の底でメルは思った。

「さあ、子供たち。遠慮せずどんどん乗りなさい」

 父は興味津々で見つめる、子連れの観光客に向かって言った。

「大人は体重制限があり、乗れないがね」

 子供たちの笑い声が響く。

 それにつられてか、役場の中から、町長が役員たちと姿を見せた。

 笑いながら、回るメリーゴーランドに拍手を送る。

 優しそうな顔の町長を、メルは見た。

 彼が親子喧嘩で、ロイを追い出したのだろうか?

 どんな理由か、ロイも町長も、詳しく話してくれなかったけど、子供好きなあの町長が、はたしてそこまでするのだろうか。

 遠巻きに町長を見ながら、メルは首をひねった。

「メル、どこかで一杯やらないか」

 父はメルの肩を抱いて、上機嫌に、元気よく言った。

「どうせ今日はモンフルールに泊まるんだ。強いのをいきたいな」

「無理するなよ」

 メルは父の腕を振り退けながら、なだめた。

 仕事が成功した打ち上げをしたいのだろう。

 しかしメルには応えられない。お酒が飲めない口だからだ。

「それに、明日も午後から、配達があるし。ひと足先に、ホテルに戻るよ。母さんと、三ツ星シェフのディナーを食べよう」

 メルは父を残して歩き出した。

「おーい、メルー」

 父が後ろのほうで情けない声を出していたが、メルは足を止めなかった。

 少しかわいそうかな、と思ったけれど、酔い潰れた父の姿は、あまり見たくなかった。

 ホテルのほうへ向かいながら、メルは町の見学をした。

 毎日歩いているとはいえ、昼と夜とでは違う町の表情だった。

 通い慣れた路地も、今は光に満ち溢れている。

 ミリのパン屋の前では、オープンカフェが大盛況。

 かぐわしいパンの香りが、通行人の足をいざなう。

 客の間を、ミリの亭主が行き交っている。

 忙しそうに、注文を受け取っているけれど、お腹が邪魔して、カップを倒した。

 メルは乾いた声で笑った。ミリの亭主は、いつもピエロのように見えてしまう。

 その時だった。

 突然、街灯の下に、メルは見つけた。

 ひとり寂しげにたたずむ、その姿。

 メルをまっすぐ見据えている。

 メルは心臓が高鳴った。思わず、彼の名前を叫んだ。

「ロイ!」

 ロイは呼ばれても身動きしない。

 メルが駆け寄るのを、街灯の下でただじっと待っていた。



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