2017
12.19

月のライン 6-2

Category: 小説


 フラワーショップ・ナヤのドアを開けると、ドアに取り付けてあるベルが、涼やかな音を響かせた。

 一歩中へ入って、窓から外を眺めると、雨はまるで滝のように店全体を打ち付けていた。

「ごめんなさい、お客様。今日は店はお休みなんです」

 奥の間から、ナヤのか細い声が聞こえた。

「ナヤ」

 キトはたたんだ傘を、ドアの横に立てかけながら、話しかけた。

「僕だよ」

「キトね」

 店舗に出てきたナヤは、やわらかい微笑みをキトに向けた。

 天使みたいだ、とキトは思った。

 微笑み返しながら近寄ると、ほんのりラベンダーの香りがする。

 キトの想いに、ナヤは気づいているはずだった。

 しかし少し年下だからか、キトを大人の男として見てはくれない。

 ちょっともどかしかったけど、それでも今のキトには、安心できる唯一の存在だった。

「お休みって、珍しいね」

「兄さんが、昨日の昼、本土へ行ったきり、帰ってこないの」

 ナヤは荒れた両手をさすっている。

「花の配達と、仕入れをしに行ったはずだったのに……電話をしても繋がらなくて」

「大丈夫だよ」

 何の根拠もないのに、心配そうなナヤを見て、思わずキトは励ました。

「セドはしっかりした人だから。そうだ、この大雨で、船の時間が延びているのかも」

「それなら、いいけれど……」

 ナヤの表情はすぐれなかった。

 キトも少し悲しくなった。ナヤが不安だと、キトも不安になってしまう。

 すり合わせるナヤの両手を、キトは見つめた。

 手に手を取って、慰めたかった。

 そんなふうに思ったその時、また店のベルが鳴った。

「郵便でーす」

 明るい声と健康的な笑顔が、店の中にやってきた。

 透明な雨合羽の下、紺色の帽子のひさしから、水がしたたり落ちている。

「はい。それでは、たしかに」

 ナヤに手紙を渡すとき、ちょっと会釈した。

 そして再びドアを開け、忙しそうに去ってゆくメールボーイ。

「誰からかしら」

 ナヤは封筒裏を見た。とたんに笑顔になって言う。

「兄からだわ!」

「よかったね」

 キトの言葉に、「うん」と頷いた。

 一度、店舗の奥に行き、ナヤはハサミを持ってきた。

 封筒の端を切り開き、手紙を取り出す。

 キトは居場所なさげに、お店の壁を見回していた。

 飾られたリースが愛らしい。今度、これも買ってあげよう……。

「えっ……!」

 ナヤの口から短い悲鳴がして、キトはすぐに駆け寄った。

 手紙をナヤから受け取ると、キトは素早く目で読んだ。



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