2017
12.18

月のライン 5-2

Category: 小説


 上陸して、人の間を縫うように歩いた。

 初めて来る観光客なら、迷子になりそうな裏通り。

 細い路地が迷路のように連なる場所。

 ノラ猫1匹歩かない暗い小径で、ロイは立ち止まった。

 ここからだと、空も狭い。

 遠くに街灯があるくらいで、手の平を広げてみても、形はあやふやだ。

 ロイは地べたにしゃがみ込んだ。

 両足をまっすぐと放り出す。

 冷えた石畳が体温を奪う。

 ロイはコートの前ボタンを開けた。

 内ポケットから、ハンカチにつつんでいたものを取り出す。

 暗がりに浮かぶ、光の花。

 薄い花びらのふちが、ほんのりと光を放っている。

 ロイの指が光っているふちを捕らえた。

 そのまま引くと、簡単に離れた。

 なぜ発光するのか、分からない。

 ロイはその花びらの1枚を、裏返したり、息を吹きかけたりして、確認してみた。

 いくら博識だからといっても、科学の力では解明できない。

 この花の構造を、ロイは憎らしく思えた。

 光る箇所を食べなければ、体に害はないという。

 昼間、暗闇にしても光らない。

 夜にならなければ、その本性を表さない。

 月の花。

 ロイは花の香りを嗅いだ。

 月の花。

 闇夜に浮かぶ、月の花。

 ロイは小さく口を開けた。

 花びらを近づけて、手が止まる。

 目の先に、光るラインがはっきり見える。

 ロイはさっと目を伏せた。

 花びらを挟んで、歯と歯が重なる。

 花の香りと同じ、ほんのり甘い味がした。



● NEXT → 月のライン 5-3






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