2017
12.16

月のライン 3-1

Category: 小説


モンフルールの広いロビーで、キトはひとり待っていた。

深夜12時で誰もいない。

古めかしい柱時計の音だけが、耳に、心に響いてる。

最終チェックインの時刻も締め切られ、もう観光客は入ってこられない。

泊まりの客は寝ているだろう。昼間歩いた町を、夢に見ながら。

キトはどうしても眠れなかった。

分厚いガウンの前を合わせて、壁際の長いソファに座ったり、
立ったり、位置をかえて座ったり……を繰り返していた。

いつもなら側にいるはずのラジが、側にいないということが、
キトには空虚なほどにに思えた。

大きな男に付きまとわれるのに慣れていたほうが、おかしかったのにな……。

キトは静かに目を閉じた。

数時間前、ラウンジでラジと話したことを振り返ってみる。

ラジはあまり自分から話したがるほうじゃないのに、そのとき、キトに聞いてきた。

「お坊ちゃんは、このホテルを継ぎたいと、もうお祖母さまには言ったのですか?」

ホテルの総取締りは、キトの祖母の、マリだった。

マリの娘は、キトを残して、キトの知らない男と2人、どこかへ行ってしまっていた。

キトはマリに育てられ、ホテルを手伝い、そのかたわらで、
地元の小学校にも通い、家業と勉強を両立していた。

ラウンジで、キトは話した。

小学校はあっても、島には中学校がない。

船で毎日本土に通うよりも、僕はお祖母さまの力になりたい。

自分を育ててくれたこのホテルを、僕は守っていきたいんだ。

ラジは自分の眼鏡をはずし、少し遠くを見つめるような目をして、
「ご立派ですね」と囁いた。

「いずれモンフルールはキトさまのものになるでしょう。あなたはホテルを離れない。
 しかし週末になると決まって同じ時間、深夜にどこかしら出向いてゆくマリお祖母さまの、
 その行動をも、引き継ぐことにするのですか」

キトが就寝のため、ホテルの一角にある自室に入っているあいだ、
ラジには自由行動が与えられていた。

キトは、その時間帯にラジも眠りについていると思っていた。

けれども、もう何週間も、ラジはマリを見張っていたのだ。

身内の不審な行動を、自分よりも、赤の他人が知っていた。

キトはラジに指令を出した。

「週末出て行くのなら、今日だ。つけて、教えてくれ。僕には知る権利がある」

柱時計が1時の鐘を打ち鳴らした。

大きな入口ドアがあき、外の冷気と一緒に、ひとりの男が入ってきた。

夜の闇に紛れるような、黒いスーツを着た男。

細いけれど、しっかりとした、長身の男。

ラジだった。

ロビーに灯るランプの光を、眼鏡のふちに滑らせる。



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