2017
12.14

月のライン 1-4

Category: 小説


 用意周到に長靴を持ち合わせているわけもない。

 ただ、買えそうな店がどこにあるか分かっていたので、メルは急いでそちらに向かった。

 はずむたびに鞄が揺れたが、今は考えないことにした。

 とにかく、濡らさないのが優先だ。

 ミリのカフェを通り過ぎるとき、彼女が太った旦那と一緒に、オープンテラスの椅子や机を片付けて、店の中に押し込んでいる光景を見た。

 これからやってくる大潮のためだ。

 旦那は試食し過ぎたのかもしれないな、とメルは少しおかしく思えた。

 大きな体で、息を切らせて、仕事に取り組んでいた。

 そしてメルは目的の店にたどり着いた。

 海水はじわじわと波打ちながら、すでにメルの足首まで沈めていたが、鞄までは届かない。

 自分は濡れたとしても、大切なものを守らなければならない、とメルは自覚していた。

 ただ、夕方に話した町長は、あの看板の半分は浸かってしまった、と言った。

 そうなれば鞄も水に浸かってしまう。

 早くどこかへ避難しなければ。



「こんばんは」

 メルは屋根から連なる、リボンの絵が浮き彫りにされた看板の店に入った。

 入るとき、木の板が水を店から遮断していたので、足を上げて乗り越えた。

 店の中はこじんまりとしていたが、所狭しといろいろなものが置かれていた。

 鞄、洋服、アクセサリー、ようするに雑貨屋だ。

 天井から吊るされたカラフルなシャンデリアが、商品をよりいっそう際立たせている。

 メルの目の端に、キラリと光るラメ入りの長靴が映った。

「あれ、メルじゃない。どうしたの、こんな時分」

 店の奥から、明るい声が飛んできた。

 彼女はリカといって、メルの友達。

 幼い頃は本土にいたが、就職してこの島の店に、住み込みで働いている。

 たまに手紙を届けると、リカの口から店長の愚痴を聞かされるのだ。

 しかし今、店を見渡しても、その店長はどこへ行ったのか、リカ以外に誰もいない様子だった。

「今日、あれの日でしょ。だから店長、もう店切り上げて、下にある商品、2階へ運べって。今、2階にいるわ。メルも手伝ってくれるの?」

「いや」

 メルは申しわけなさそうにリカに言った。あの長靴を指差して。

「おいくらですか?」



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