2017
12.14

月のライン 1-1

Category: 小説


 フェリーに乗って30分、本土から16キロと、さほど離れていないその島は、観光地として人気があった。

 島、といっても南の楽園ではなくて、船が上陸する港には、たしょう砂浜がある程度で、島を支える地面には、そのほとんどに硬い石畳が敷き詰められていた。

 上に建つのは、中世の面影を残した建物。

 太い木枠が入り交じり、みな同じような朱色の屋根に、白い壁。

 花を飾った出窓に揺れる、レースのカーテン。

 ドアには飾り窓がつき、そのすぐ側に、小さなポストが立っていた。

 今日もまた、手紙を差し込む音がする。

 花から花へ、飛び回る蝶のように、家々を回っては、手紙を投函する郵便屋。

 この町の人と心を繋ぐ、大切なライフライン。

 23歳の彼には、メルという名前があった。

 けれども島の住民たちは、手紙の運び屋である彼のことを、メールボーイと呼んでいる。

 もう何年も前から顔見知りなのにかかわらず、メルという本当の名前を知らない。

 ごく親しいメルの友達をのぞいては。

 友達はメルが本土から、1日100通ほどの手紙を、フェリーに乗って運んでくることを知っている。

 また、人口1500人あまりのこの島を、徒歩で駆け巡っていることも知っている。

 もし島をまっすぐ横断したとしても、1時間とかからないのだ。

 通い慣れた彼の足には、ちょうどよいジョギングコースのようなものだ。



 小さな島には昔から、ちゃんとした病院や警察署、そして郵便局が1つもなかった。

 メルが勤める本土の局で、今も変わらず、島への配達、そして島にある、たった1つのポストに出された、その手紙の収集を行っていた。

 今のところ、島はメルの担当だが、その先代も、さらにその先代の担当者も、島のみんなからメールボーイと名付けられていたらしい。

 その名残りで、メルも、メールボーイと呼ばれることに誇りを持って、仕事をしている。

 ただ、この島のポストから集める手紙はほとんど、この島の風景を描いた絵葉書か、写真のついたポストカードが主だった。

 本土から持ってきた、島民に配る手紙は封筒に入った手紙だったが、島の中央、町役場に設置された大きなポストからは、封に入っていない手紙を持ち帰る。

 やはり、観光客が旅の記念に、家族や友人に贈るものだろう。

 島の住民はあまり手紙を出さないからかもしれない、この島に郵便局がなかったのは。

 メルは自分なりに、そんなことを考えていた。



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