2017
12.13

回る円盤

Category: 小説


その時、少年はまだ言葉も知らぬ赤ちゃんだった。

母とベビーカーに乗せられて、連れ出された散歩の途中で、少年はあるものに目が釘付けとなった。

ベビーカーから見上げたその先に、くるくると回る円盤があった。

なぜ円盤があるのか、なぜくるくると回っているのか、しかし少年は0歳だったので、母親に尋ねようとしてもただ「あー!」としか言えないのであった。


円盤は回る。

ただくるくるとその場で回り続けるのだ。


うちに帰ってからも、少年はその円盤を忘れられなくて、夢にまでみた。

どうしても気になって、この手に触りたい、とさえ思った。

しかし少年に出来ることといえば、ただ「あー!」と言って泣くことだった。

母親は不思議そうに、オムツを替えたりミルクをあげたりしてみるも、今の少年の気にめす方法は何も無かった。

しばらくそんな日々が続き、母親の育児疲れを察してか、少年は次第に泣くことも減り、あの円盤のことは、徐々に頭の中から消えていった。


しかし少年はまだ知らなかった。

近い将来、自分があの円盤に乗ることになろうとは……。



小学生になった少年は、下校途中に急にトイレに行きたくなった。

自分の家はまだ先だし、しばらく歩かなければいけないが、もうギリギリだ。

そこで、少年はある店へ入った。

そこは赤ん坊のころから、よく母親と散歩中に通っていた古道具屋だ。

きっとここなら、顔なじみのおじさんがいるし、トイレだって貸してくれる。


少年は店のおじさんに短い挨拶をすると、すぐにトイレを借りることが出来た。

そして少年が「ありがとう」と言って店から帰ろうとした時だった。


少年は店へ入ってきたおばさんと真正面からぶつかってしまった。

そしてその弾みで、軽い体が後ろへよろけた。

次の瞬間、少年のお尻の下で、何かが壊れる音がした。

「おやまあ」

とおじさんがやって来て、少年を助け起こしながら言った。

「大丈夫かね?」

「ぼくは大丈夫。でも、この機械に乗っちゃって、壊れちゃったかもしれない」

「いや、そんな所に置いていたおじさんが悪いんだよ。それはもうかなり古くなったし、処分しようと思っていたところなんじゃ」

少年はその機械を見て、一瞬記憶が蘇った。

自分が赤ちゃんだったころ、この店先のショーウィンドウで、くるくる回っていたものだ。

少年は聞いた。

「おじさん、これ、何ていうものなの?」

「おお、それか」

おじさんは親切に教えてくれた。

「円盤が回りながら音を出す、レコードというものじゃよ」



◆ E N D






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