2017
12.12

わたる君の日記帳

Category: 小説


ある日の放課後、わたる君は横断歩道の向こうから、一人のおじさんが歩いてきて、話しかけられた。

「やぁ、やっと会えたな」

「おじさんだれ?」

わたる君はおじさんの顔を見た。

どこか自分と似たような目をしている。

「親戚の人?」

「とりあえず止まって話さないか?」

「えっ、横断歩道だよ。信号が赤に変わっちゃうよ」

わたる君が足を進めようとするが、おじさんはわたる君の腕をがっしり掴んで放さなかった。

「助けてー」

「助ける、助ける」

おじさんがそう言った直後、まだ青信号なのに、数歩先へ大型トラックが突っ込んできた。

わたる君があのまま進んでいたら、どうなったか……。

トラックはスピードを緩めず、電信柱に追突して止まった。

酔っ払い運転だった。

「わたる君、おじさんはちゃんと助けたからね。それからね、これはとっても大事なことなんだけど、君の机の引き出しに、まだ使っていない緑のノートがあるだろう? ほら、ママが買ってくれた。今日からそれを、日記帳にしなさい。分かったかい?」

「う、うん……」

おじさんは何でそこまで知ってるんだろう……と不思議に思うまもなく、そのおじさんは名前も告げずに行ってしまった。

わたる君は今日から日記を書き始めた。



数日後のある昼下がり。

わたる君は友達と、校庭でキャッチボールをして遊んでいた。

そこへ、またしてもあのおじさんが現れた。

「わたる君、ちょっとこっちへボールを投げておくれよ」

「いいよー」

わたるくんから受け取ると、おじさんはボールを持ったまま走り出した。

「ほーら、返して欲しかったら取りにおいで」

「返してー」

わたる君と友達はおじさんを追いかけた。

するとその時、突然の突風でサッカーのゴールネットが倒れて、わたる君たちのいた場所へ飛んできた。

もう少しわたる君の足が遅かったら、あれに直撃していただろう。

おじさんはボールを返しながら、わたる君に言った。

「日記はね、三日坊主じゃいけないよ。おじさんの活躍を、ちゃんと細かく書くんだよ」

「うん、わかった。おじさんありがとう!」

わたる君は元気にお礼を言った。

おじさんが誰なのか分からなかったが、またふらりとどこかへ行ってしまった。


その日、わたる君はおじさんのことをママやパパに言ってみた。

しかし、二人ともおじさんに心当たりがなく、おじさんはヒーローだ、神様だ、と言って、わが子の無事を幸せに思った。



それからもおじさんはちょくちょく現れて、わたる君の危機を救ってくれた。

別れ際には、

「ママやパパを大切にするんだよ」

とか、

「しっかり勉強するんだぞ」

というように言い残し、名前を明かさず去ってゆく。



わたる君は大学を出て、勉強を続けた結果、立派な科学者になっていた。

自分の研究する分野に取り組むうちに、あのおじさんが何となく誰なのか想像がついてきた。

しかしまだ若いうちは、研究を続けていかねば、真実には出会えない。

わたる君はそれと同時に、毎日の日記もかかさなかった。



わたる君は四十歳になった。

そして今日、わたる君の研究していた結果を、自分の身をもって試してみたくなり、実行してみた。



わたる君は自分の日記を手に、マシンに乗り込んだ。

マシンは時間を越えて、幼いわたる君の下校途中にゆきついた。

幼いわたる君は横断歩道を歩いている。

そこで、四十歳のおじさんになってしまった今のわたる君は、言った。

「やぁ、やっと会えたな」



おじさんはこれから先も、わたる君を助けることで生きてゆこうと、日記帳を眺めつつ思っていた。



◆ E N D






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