2017
12.09

シャツ

Category: 小説


 シャツは、「自分はどうしてこんな人に着られているんだろう」と、納得がいきませんでした。

 シャツは、ショーウィンドーのマネキンに着られているのが、一番でした。

 華やいだ人通りから、たくさんの視線を集めていたのですから。

 今、シャツは試着室にいます。

 おばさんに着られて、鏡と向き合わされているのです。

 ちょっと太いおばさんは、シャツのボタンを引きちぎりそうです。

 シャツは、ショーウィンドーに早く帰りたくなりました。

 おばさんはボタンが頑張っているのを見て、買うのをやめました。

 シャツは店員の手に渡されて、おばさんから解放されました。

「よかったわね」

 と店員がシャツに言いながら、マネキンに戻してくれました。

 店員は毎日ここにいるので、どんな服とも以心伝心できるのです。



 シャツはまたショーウィンドーから、人通りを眺めていました。

 まだ、この人という人に巡り合えずにいるのです。

 その寂しい思いに、店員は気づいてくれていて、「あの人はどう?」とか「この人はあなたをきっと大切にするわよ」など言ってはくれるものの、シャツはどうも気が進まないため、ここに留まっているのでした。

 シャツは、自分は何を待っているのだろう、分かりませんでした。



 そんなある日、本社から店長がやってきて、店員に言いました。

「バーゲンと題して、みんな売ってしまいなさい。在庫一斉値下げよ。季節の変わり目だし、ちょうどいいでしょ」

 そこで、店内の衣類は、大きなワゴンに入れられました。

 ワゴンセールが始まったのです。

「ごめんね、みんな」

 店員は仕方なさそうに謝りました。

 店長に逆らったらクビになるので、シャツも店員を恨むわけには、いきません。

 そう分かった瞬間、シャツは「この人だ」と気がつきました。

 この人ほど、自分の思いをよく知る人間はいない、と分かったのです。

 シャツは喋れなかったし、ワゴンの中で客に手に取られながら、店員に想いを寄せるほかありません。

 店員も気がついてくれました。

 しかし、客に売るのが仕事でしたし、自分が買うというのは、ちょっと違う感じがしました。



 シャツはついに買われる日がきました。

 お金持ちのお嬢さんに、まとめ買いされたのです。

 お金持ちはだいたいケチですから、こういうことはよくあります。

 しかしお嬢さんは自分では着ずに、フリーマーケットへ持ってゆきました。

 買った値段に、少々上乗せした値段で売り始めました。

 ケチな金持ちの考えでした。

 しかし、シャツにとって、それはもっとも幸運な出来事でした。

 あの店員が、ちょうど通りかかって、よく見ていたシャツに気づいてくれたのでした。

「覚えている、シャツ」

 と店員はシャツに言いました。

「わたしは、あの店を辞めたのよ。きっと、あなたがいなくなったからね」

 そして、店員はお嬢さんから、シャツを買ってくれました。

「これからは、いつも一緒に生きてゆきましょう」

 と店員は言ってくれました。


 今、シャツは店員と一緒に、未来へ向かって歩いているのです。



◆ E N D






このエントリーをはてなブックマークに追加 follow us in feedly


にほんブログ村 小説ブログへ
関連記事
トラックバックURL
http://riemiblog.blog.fc2.com/tb.php/39-8c225c88
トラックバック
コメント
このコメントは管理人のみ閲覧できます
- dot 編集
なんかしりませんけど、
あぁよかったと思いました。
これがほんまの愛着ですな。^ ^
赤ポスメジロ dot 編集
管理者にだけ表示を許可する
 

ポイントでお小遣い稼ぎ|ポイントタウン


back-to-top