2017
11.30

スランプの怪物

Category: 小説


 あるところにSF作家がいた。

 彼はスランプに陥っていた。

 そんな中、突然彼の前に、大きな怪物が現れた。

「な、なんだお前は!!」

「俺はあんたの産物さ」

 と怪物は言った。

「あんたが困った時に、あんたの脳みそを通して出てくる仕組みになっている。言ってみりゃ、俺を喋らせているのは、あんたの考えによるってもんだよ」

「そんな、まさか、信じられない……」

 作家は困って、近くの人に呼びかけた。

「誰か、この怪物が見えるだろう!?」

 しかし、通行人も誰ひとり、首を縦に振らなかった。

「そんな……本当に僕の空想が生み出したものなのか……?」

「さっきからそう言ってるじゃないか。さあ、俺を題材にして作品を書け。でないと俺が出てきた役目を果たせない」

「し、しかし……」

「まだ信じられないのか。困ったやつだな。現実は小説より奇なり、ってよく言うだろう。さぁ、俺にどうして欲しい。何かストーリーになるよう、動かしてみろ」

 作家は一生懸命考えたけれど、この空想の怪物をどうすればいいのか、考えが浮かばない。

 もともと、スランプになっていたのだから、これ以上考えられないのは当然だった。

 そこで、怪物に聞いてみた。

「お前はどうして出てきた。僕が困った時に出るんなら、僕を助けてくれるためにいるんだろう!? なぜ追い詰めるようなマネをする。僕にはもうアイデアが浮かばない!」

「情けないやつだな。俺はお前が困った時、さらに追い詰めて、そして答えを導くためにいるのさ。人は極度に追い詰められると、新しいひらめきが出てくるものなんだぜ。さあ、俺を見ろ。怖いか、怖いだろう。ガオー。これでもまだ書けないっていうのか」

「書けないものは書けないんだ」

「仕方がない。書くまでつきまとってやるぞ」

「あぁ、恐ろしい……」

 作家は頭をかかえて困り果てた。

 ちょうどその時、病院が目の端に映った。



 作家を診察した精神科医は、親身になって答えてくれた。

「ふむ。そういうわけなら、怪物という想像をやめればいい。その怪物があなた自身の空想なのだからね」

「あぁ、ですが先生……僕がスランプにある以上、この怪物は出るのです」

「なるほど。では、あなたは何も悩まなければいい。書くのをやめなさい」

「僕に、作家をやめろとおっしゃるのですか」

「そういうことですな」

「ええ……そんな……」

 確かに、アイデアが無い以上、作家の仕事は続けられない。

 怪物を出したのが最後のアイデアなのだとしたら、それに賭けてみるしかなかった。

「やっとその気になってくれたか。よかった。さあ、俺に仕事をさせろ」

 怪物は嬉しそうだった。


 しかし何日も何日も、作家がペンを取らないので、怪物も日増しに不安になってきた。

「おい、作家。もっと真面目に考えろ」

 怪物があまり暴れるので、作家はプレッシャーに押しつぶされそうになった。

「どうしようもないやつだな、お前は」

 ついに、怪物のほうが折れた。

「そんなんじゃ、俺の立場がないだろう。わかった、わかった。今回だけは見逃してやろう。お前も初めてだったからな。だが、同じようなことがあったら、俺はまた出てきてやるからな。覚えておけよ」

 怪物はガオーと鳴いて、霧のように消えていった。



 それからのち、SF作家はノンフィクション作家へと生まれ変わった。

 早い話、空想しなければよいことだった。

 真実だけを追究してゆけば、空想する暇もない。

 毎日、どこかしらで事件は起きる。

 それを書いてゆけばいい。

 怪物には悪いが、この仕事はスランプになっているような時間は、まるで無かった。

 ニュースや報道を掴んでは、それを記事や本にしてゆく。

 毎日新しい発見があり、作家は充実した日々を送ったのだった。



「どうだい、怪物。こういうストーリーなのだけれど……」

「ふむ。悪くはない話だな」

 作家の側で、怪物は言った。

「俺が出てきた話を書くことにしたんだな。最後のオチは、俺はわりとキライじゃないぞ」

「そうだろう。僕も必死になって考えたんだよ」

「だが、俺が折れるってあたりは、俺はあんまりどうかと思うぞ。まぁ、これで俺の役目は果たせたっていうことか。それじゃ、俺もやっと休めるわけだ。次のお前のスランプまで、さらば」

 怪物はガオーと鳴きながら、霧のように作家の前から消えていったのだった。


 作家はそれから、今でもスランプになることなく、アイデアを空想し続けている。

 想像力豊かな、SF作家として……。



◆ E N D






このエントリーをはてなブックマークに追加 follow us in feedly


にほんブログ村 小説ブログへ
関連記事
トラックバックURL
http://riemiblog.blog.fc2.com/tb.php/30-44b4fa75
トラックバック
コメント
このコメントは管理者の承認待ちです
- dot 編集
管理者にだけ表示を許可する
 

ポイントでお小遣い稼ぎ|ポイントタウン


back-to-top