2017
11.15

ダイエット

Category: 小説


 彼女は人には言えないが、体重が80キロあった。

 何度も痩せようとダイエットを試みたが、その度にリバウンド。少し痩せると、油断して食べてしまうのがいけなかった。

 ある朝、新聞に挟まれていた広告チラシを目にして、彼女は、もうこれしかない、と決意した。



 チラシを持って訪れたのは、ある合宿所。

 ここで専門のインストラクターに、特別な運動方法からカロリー計算まで、一日中、監視されながら過ごす企画に参加したのだ。

 インストラクターは、この日集まった三人の参加者を前にして、言った。

「私の指示に従っていれば、必ず体重は減る!」

「どのくらい減りますか?」

 80キロの彼女は聞いた。だが、インストラクターは、

「人の体質によって違うので、何キロかは断定できない!」

 と言った。

「だが必ず減る! それは断言する!」

 それを聞いて、彼女たち三人は、痩せるまで続けようと言い合った。

 契約書にサインしたが、いつでも途中放棄もできるルールだった。やめたくなったら、「やめます」と言えばいい。

 かくして、三人のダイエット合宿が始まったのだった。



 初日はご飯も普通に出た。

 彼女たちは、合宿所の周りを軽くジョギングし、その日の晩に、身体検査をするだけですんだ。

 しかし朝起きてみると、小さな事件が起こった。

 参加者の一人のサイフが、盗まれていたのだ。

 同じ参加者の鞄から見つかった。

 よって、80キロの彼女以外の、二人の参加者は、この企画を辞退した。

 急に二日目から、80キロの彼女は独りきりになり、インストラクターとマンツーマンで、指導を受けることになった。

 少し心細いが、痩せるためにがんばろう、と彼女は思った。



 お昼ご飯は、ご飯と梅干しのみだった。

 そしてジョギング。

 小腹が空いてきたな、と思ったころに、一緒にいたインストラクターが言った。

「しまった。もう水がない。ちょっとスーパーへ寄り道しよう。痩せるにも、水分不足は危険だからな」

 そこで彼女は、しんどかったが、スーパーまでインストラクターに付き合うことにした。

 だがその道中、インストラクターが言った。

「きみ、お金持ってるか?」

 なんとインストラクターのサイフからも、お金がスラれていたのだった。

「私は持って出てないわよ」

 と彼女が言うと、インストラクターはお金のないサイフから、カードを取り出し、

「銀行に寄ってからだ」

 と、向きを変えて言った。

 彼女も、それは仕方ない、と思って同行した。



 銀行は遠回りだったけど、なんとかたどり着いた。

 インストラクターが、お金を引き出してサイフに詰めると、ちょうど側にいた男が、怪しげに後ろをついてきた。

 銀行から出てスーパーへ向かう道、インストラクターは男を警戒しながら、彼女に言った。

「すまないがきみ、このサイフを持っていてくれ。私は男の気を引いて、あいつをとっ捕まえてやる」

 そして彼女の手にサイフを握らせ、インストラクターは走り出した。

 男も走り出した。

 しかしインストラクターを追いかけずに、彼女に向かって駆けてきた。

 サイフを渡したのを見られていたのだ。

 インストラクターは走ってどこかへ行ってしまった。

 彼女は慌てて逃げ出した。走りながら後ろを振り返ると、男が小型ナイフを握っているのが見えた。

 彼女は怖くなって、全速力で走った。

 追いつかれるギリギリのところで男は駆けてくる。どうやら、彼は足に自信がなさそうだった。

 しかし彼女は、全身の肉を揺らして駆けていた。

 これ以上走ったことなどないくらい、駆けていた。

 しばらくそうしている内に、サイフを手放せばいいのだということに気づいた。

 彼女は、すぐ後ろを走っている男めがけて、サイフを投げた。

 男はあんまり急だったので、何を投げられたか分からず、追跡を続けてしまった。

 そしてついに、彼女は男に捕まってしまったのだ。



 両者とも、立ち止まって、息を整えている。

 何か喋ろうにも、鼓動が早すぎて、二人ともつかえている。

 するとひょっこり、インストラクターが姿を見せた。

 彼は彼女の肩に手をおき、冷静な態度で言った。

「どうです、私たちのダイエット企画は」

 じつは、朝起こったサイフの盗難事件から、何もかもがやらせだった。

 水を彼女に手渡しながら、インストラクターは言った。

「こうでもしないと、最近の人は本気で走ってくれないのです。いくつかのハプニングがあってこそ、ダイエットは強化されるもの。明日にはまた、違う事件が本物のように起こるし、明後日にはまた、違うドッキリが。続けるか続けないかは、体重を量ってみてお答え下さい」

 彼女はインストラクターと、そしてナイフをチラつかせた男と、三人で合宿所に戻り、体重を量った。

 3キロ痩せていた。

「私、もうやめます」

 と彼女は、インストラクターに言った。

 彼女は思った。死ぬかと思うほど走らされ、たかが3キロ。そのためだけに、命を危険にさらすことなんてないわ。

 77キロの彼女は、今までこんなに真剣に痩せたことはないけれど、もう少し緩やかに、時間をかけてもいいから、真面目に痩せることにしましょう、と、心に決めた。

 インストラクターは、

「こんなにも即効性のある痩せ方なんて、他にないのだがねぇ」

 と、とても不思議がっていた。



 このダイエット方法は、しばらく注目を浴びていたが、心臓発作の犠牲者が出たため、あっという間に消えていった。

 そしてもう、新聞の広告にも載らなくなったのだった。



◆ E N D






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コメント
はじめまして。ダイエット話おもろいですなあ。
感動しました。
俺は走るのは苦手で今は病気で走れませんわ。
でも走った気分になれましたわ。
ahiru10beemk2 dot 編集
これは本当にいいよ。
ahiru10beemk2 dot 編集
とりあえず「心の友」認定したから頑張ってくれ。
男でも女でも、遠くから応援だけする。
ahiru10beemk2 dot 編集
またココにきてしまった。
俺は走りたいんだろうなあ。
歩くので精一杯なんよ。
歩いてるのに。
「甘えるな!」とか説教しやがって。
あの野郎。
勝手に覗いて電話でいきなり説教とかありえんわ。
まあ、来年、社会復帰だからこっちは。嫌でも。
またな!
ahiru10beemk2 dot 編集
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