2017
11.16

新世界

Category: 小説


 人間は多くの争いにまみれ、絶滅品種になりました。

 そこで、新世界を築いていたロボットたちにより、最後の一人を保護することになったのです。

 彼は人類最後の貴重な一人で、名前も「ヒト」とされました。



 その頃、ロボットたちにはすでに人工知能・AIが埋め込まれており、新世界と呼ばれるこの地球を、自らの意思で管理し、新たな発展へと成り立たせていたのです。

 人間以上の知恵を持っていましたから、ロボットたちは、争い事を起こしません。

 動力も太陽電池で、太陽がある限り、永遠に生き続けます。

 ロボットが動きを止める時は、ロボットの手により、より性能のいい次世代型ロボットが開発された時のみ。旧式は破壊されてゆくのでした。



 ロボットたちは安定した新世界に蔓延していました。一人の人間、ヒトとともに。

 ヒトには太陽の光はいらなくても、食事が必要です。

 そこで、彼だけのために、食物を育てなくてはいけません。

 数人のロボットが、土に野菜を植え、栽培し、それをヒトに食べさせました。



 ヒトは実験室のような地下室に、貴重なモノとして保管されています。

 ロボットが野菜を持って届けると、ヒトは食べ、栄養をつけます。

 しかし、野菜だけでは、すぐにお腹が空き始めます。

 まったく、厄介なモノでした。

 ロボットたちは栄養剤を開発し、水と一緒に飲ませました。



 ヒトには意思がありました。

 それは「一生、地下室にいてもつまらない、自由になりたい」とのことでした。

 ロボットたちには分かりませんでした。

 とりあえずこの生活を二十歳までは送らせることに決めたので、ヒトは人類最後のその誕生から、成人になる二十年間を、この地下室で過ごしました。



 月日は途方もなく長かったので、ヒトは毎日食事を運んで来るロボットと、仲良く話したりしていました。

 ヒトはそのロボットに「ディナー」と名付けました。

 ディナーはそろそろ旧式になりかけようとしていました。

 二十年間のうちに、テクノロジーは絶えず進化し続けていたのです。

 食事を運ぶことしか能のないディナーは、ヒトが二十歳になった日に、破壊されることが決まりました。



 二十歳になったヒトは、自由に外の世界へ出てゆくことが許されました。

 この世のどのロボットにも、ヒトを傷つけてはならない、保護するもの、としてデータがインプットされたので、危険なものなど何もありません。

 そこでヒトは出歩きました。



 地下室から出て、何番目かのドアを開けると、ディナーが解体されている現場に出くわしました。

 ヒトは見慣れたディナーをもう見れなくなることが悲しくて、泣きました。

 しかしディナーや他のロボットたちの考えは違いました。

「悲しまないで、ヒト」

 とディナーが言いました。

「あなたがどこにいようと、一番側にいるロボットが、時間通りに食事を運ぶでしょう。そしてそれらは、私よりも優秀なのです」

「もうディナーと話せなくなるなんてイヤだ」

 とヒトはわがままを言いましたが、ディナーは首を横に振りました。そして、我が子を慰めるかのように、最期にこう、言ったのです。

「あなたはもう、大人だから解かるでしょう。私はロボット。いたる所にいるロボットと同じです。彼らをディナーと思えば、それは私なのです」



 ヒトは新世界の表の世界を歩き、眺めました。

 機械ではない二足歩行者が表へ出るまで、二十年間の歳月が経っていました。

 街は機械に埋め尽くされ、地面も畑ではない所は、すべてが白いコンクリートで固められています。

 建物の形はいろいろありましたが、どれも白っぽい材質でできていて、ちょうど、色の塗られていない小さな模型のようでした。



 ヒトが白い道を歩いていると、遠くから細長いロボットがやってきました。

「久しぶり、ヒト。私は人間を見るのは、二十年ぶりです」

「久しぶり」

 とヒトも応えましたが、会ったことのないロボットです。

 ロボットにとっては、どの人間でも同じ人間、という感覚なのです。

「退屈でしたら、人間博物館へ行きませんか。人間の貴重な記録を保管し、展示している所です。あなたはそれを見るべきです」

 そう言われたので、ヒトはその細長いロボットと一緒に向かいました。

 博物館へ入るのに、お金などいりません。もうこの新世界では、そういった概念すら消え失せていたのです。



 展示品はガラスケースに入っていました。

 誰かの髪の毛、ロボットには必要のない鏡、衣服などがありました。

 ヒトはその時初めて、人間とは服を着る生き物だと知りました。今まで素っ裸だったのが急に恥ずかしくなり、細長いロボットに言いました。

「僕には何か、着る物がいる」

 するとロボットは微動だにせず、頭に伸びたアンテナから、電波を使って他のロボットと交信しました。


 しばらくして、他のロボットが一着の服を持ってきました。テレパシーを受け取った者です。

 ヒトは着ました。布地ではない、ナイロンのような繊維でできた、不思議な白い服でした。

「ありがとう」

 とヒトが言うと、二人のロボットは口をそろえて言いました。

「どういたしまして。それでは、ごゆっくり」

 ロボットたちが行ってしまうと、ヒトは一人で、博物館を廻りました。

 閲覧できる本も読みました。

 どうして人間が滅びたか、争いの恐ろしさを学びました。

 ロボットたちの世界になって、世界はこれでよかったとさえ思いました。



 ヒトが博物館から出た時でした。

 急に空から、銀色に輝く何かが飛来しました。

 怖いと思う間もなく、ヒトは銀の何かに連れさられました。

 そして気がつけば、自分を取り囲む、たくさんの人間がいたのです。



「怖がることはない。我々はきみと同じ人間だ。味方だよ」

 と、リーダーらしき男の人が言いました。

「作戦は成功だ。ロボットたちから、無事、人質を奪還できた。彼らはきみにウソを教えたはずだ。人間はみな、絶滅したとか。人間博物館という建物まで、でっち上げさ。我々の世界の真実を教えよう」

 ヒトはリーダーの話を、銀色の乗り物の中で聞きました。

 飛来したのは空飛ぶ乗り物だったのです。

 自分と同じ、人間がいます。子供も、大人も、老人もです。

「我々人類は、ロボットに支配されていた。一人の科学者が、人間不信におちいったためだとされている。科学者は広く蔓延していたロボットたちに、人間攻撃のウィルスを送った。それがロボットと人間における戦争の幕開けとなった、コンピューターウィルスだ。人間はロボットの強じんな力に負けた。彼らの力は永遠だ。昼も夜も眠らない。太陽がある限り、エネルギーが蓄積されて動くのだから。人間はそれでも頑張った。だが、頭のいい奴ら、ロボットは、人間の人質を一人とったのだ。それがまだ赤子だった、きみだよ」



 ヒトは無言でリーダーの話を聞いていました。

 信じていた世界は、ロボットたちの新世界などではなかったのです。

 さらにリーダーは続けました。

「ロボットたちのAIに繋がるメインコンピューターがあるんだ。そいつを壊せば、すべてのロボットたちが活動を止める。どこにあるか、それは、きみの二十年間いた地下だよ。頭のいい奴らは、きみをあえてそこに置いたんだ。人質もろとも、破壊されないようにね。我々もバカじゃない。二十年間、姿をくらましていた。大変な苦労だった。しかしそれにより、ロボットたちは人間を本当に抹殺できたと思ったのだろう、きみを手放したのだから」

「それで、メインコンピューターを壊すのですか」

 とヒトはリーダーに尋ねました。

「それをする以外に、我々が待っていたものはない」

 とリーダーが言いました。

「戦えるよう、武器も造った。一緒に手に取り、きみも地下室へ潜入してくれるか」

 その問いかけに、ヒトは躊躇なく答えました。

「いやです」

「なぜだ。きみを二十年間も隔離して、憎くないのか。自由になりたいと、思ったことはないのか」

「それ以上に、戦争はいやだからです」

 二人の人間は言い合いになりました。



「ロボットが壊れたって、悲しむ奴などどこにもいないぞ」

「僕は悲しみます」

「きみが守られていたと思っていたのは間違いだ。優しくされていたのは、もう人間は一人では刃向かえないと分かっていたからだ」

「ロボットは何も悪くありません。悪いのはウィルスを作った人間のほうです」

「きみは、洗脳されているのか。ロボットの味方だな?」

 リーダーは手に、ボールほどの丸い機械を取り出しました。

「爆弾だ。メインコンピューターに投げつけると、大爆発を起こす。きみが捕虜でなければ、いつでもやれたのだ。我々はきみを救ったのだ」

 ヒトは頷こうとはしませんでした。

 ロボットたちから、戦意のかけらも見えなかったのです。確かに自分は保護されていたと、ヒトには思えてなりませんでした。

 人間攻撃ウィルスというのも、ロボットたち、自らで、ヒトを保護するというデータに変えられたのではなかったでしょうか。

 しかし、そんなことなど気づかない人間たちは、まだ過去のことを憎み、逆襲することを狙っています。


 ヒトは思いました。僕も人間の一人なのだと。だから、彼がリーダーから爆弾を奪って、床に投げつけ、乗り物ごと人々を殺したのも、酷い心がロボットにではなく人間に存在することへの証明になったのでした。



 ロボットたちは、一瞬、空が赤く光ったのを見ました。

 しかし過去にそんなデータがないので、それが自分たちを守ってくれた光だとは分かりませんでした。

 ただ、いなくなってしまったヒトのことを捜し、見つからないと分かると、より一層、人間博物館の存在を重要視するのでした。


 彼らは太陽が昇る限り、自ら考え、この地球をよりよい世界へと進展させてゆくのです。

 彼らの理想の、新世界へと。



◆ E N D






このエントリーをはてなブックマークに追加 follow us in feedly


にほんブログ村 小説ブログへ
関連記事

ポイントでお小遣い稼ぎ|ポイントタウン


back-to-top