2017
12.20

月のライン 7-4

Category: 小説


メルは町なかを駆けていた。

楽しげな笑い声の間をすり抜けて、来た道を戻って行った。

ロイに、手紙を渡してくるので、あのベンチで待つよう言ったが、
おそらく待ってはいないだろう。

あのあとすぐに、小学校のほうへ行く、と言って聞かなかった。

畑を壊すつもりだろう。この町のために、ロイは証拠を消そうとしているのだ。

メルは役場前の広場に着いた。

上下に動きながら、回り続けるメリーゴーランド。移動式遊園地。

その費用を出したのは、他ならぬ町長だ。

この町のため、ロイも町長も、自分の身を尽くしている。

それぞれ違うやり方で。

メルは辺りを見回した。

メリーゴーランドの近くに、メルの父はもういない。

けれど役場の前にはまだ、町長の姿が見えた。

町の人々と談笑している。

メルの足がそっと近付く。

何も言わずに、手紙を町長に差し出した。

町長の顔から笑いが消える。

封筒を開くと、花びらが一枚、その足下にひらり、と落ちた。

町長はメルの顔を見る。

「僕はロイの友達です」

とメルは言った。

「お願いです。彼を助けてあげてください」

その眼差しに、嘘をついている欠片もなかった。

「この島にロイはいるのか?」

「今、畑のほうへ行きました」

町長は封筒をしわくちゃに握りしめ、人々を押し退けて駆け出した。

「花に近付いちゃいかん!」

町長は心の底から叫びながら、絡みそうになる足を、一生懸命、動かした。

走り去る背中を見送って、メルは、その場で目を閉じた。

もう……大丈夫だ。

ロイ、きみの信じたように、まだ父親は、息子を想う。

僕には、手紙を届けることしか、他には何もできないけれど、

互いに心を通じ合わせることに繋がるのなら、これ以上のやりがいはない。

開いたメルの目の中に、ライトアップされた町並みが映った。

幻なんかじゃない。

ちゃんとこうして、ここにある。



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