2018
01.02

ソレイユの森 11 カナユワテ

Category: 小説


 ちょうど三百年目の真夜中、零時ぴったりに、遥か上空で何かが光った。

 空から落ちた物体が、強い光と爆風を生んだ。

 続けざまに、大きなきのこ雲が立ち上り、静かに、大気に溶けていった。

 家から屋根が吹き飛んで、壁も崩れ落ちていた。

 しかし温室から伸びた大木の葉が、雨や雪から、その土地を守るようにして伸びていた。

 停止と再起動を幾度となく繰り返しながら、ソレイユはまだ、そこにいた。

 もはや家とは呼べない、大きな木々の中に立ち、陽の当たる隙間を計算して移動する。

 古い遺跡のように崩壊した暖炉の、残骸の側からは、あまり遠く離れなかった。

 三百年という途方もない月日の中で、一帯は豊かな森へと化していた。

 朽ちて倒れた、太い丸太の樹皮をかじる、小動物の気配も感じる。

 ソレイユのスーツは、枝に擦り切れてボロボロだった。

 破れた黒い上着の下から、穴の開いたカッターシャツと、フリンジのように細切れにほつれたネクタイが、風になびいて見えていた。

 左肩の表面が一部、内へ丸く落ち窪み、強い損傷を負っていたために、左手は肩より上に、もう持ち上げられなくなっていた。

 けれど足は丈夫だった。

 コケの付着した大きな岩が露出した大地を、バランスよくしっかりと歩く。

 その日も充電を兼ねたパトロールをしながら、この森で、人の姿を見ることはないだろう、と考えていた。

 それは今までの蓄積されたデータには無い、計算外のことだった。

「カナユワテ、といいます」

 栗色の髪の長い、二十歳前後の女性が、何の前触れもなく現れて、ソレイユに言った。

「通じるかしら、古い日本語? あなたの設定言語に合わせて、話します」

 ソレイユは応じて、握手の右手を出しながら、以前と変わらず、なめらかな声で喋った。

「初めまして。僕の名前は、ソレイユです」

 女性は、ソレイユの手の甲を、人差し指の腹でなぞった。それが挨拶の仕方のようだった。

「ソレイユ……それは太陽、また向日葵という意味があるわね。翻訳機がそう示しました。私の名前は、世界共通語で、結ぶ、繋ぐ、という意味を持つのよ。カナと呼んでください、ソレイユ」

「カナ」

 とソレイユは言った。カナは少し首を傾げて、目を細めながら微笑んだ。

「従順なロボットね。旧式だけど、今のロボットたちよりもしっかりしてる。あの爆弾からの電磁波も、まるで影響しているようには見えない……。ずっと何かを守っているんでしょう? 彼からそう、聞いているわ」



 張り巡らされた根が、浮き出た地面を歩くのに、カナは慣れていなかった。

 二本の枝を杖にして、両方の手で一本ずつ持ち、交互に地面を突きながら進んだ。

 細い体を覆うフード付きのコートは、表面がエナメルのように艶やかだ。

 降り注ぐ葉からの露も、枝から飛び出した鋭いトゲも、コートが滑らせるようにかわし、彼女の体を守っていた。

 カナは、ソレイユの巡回に付き合い、そして暖炉の跡地の前に来た。

 ソレイユはその前を動かない。カナは、終着点はここだ、と察した。

 近くの岩に腰を下ろし、まぶたを一度、ゆっくりと開閉してから、言った。

「よかった、記録できたわ。電磁波はもう、消えたみたいね……。眼で撮った映像を、今、彼に送信します。明日、ここに着くでしょう」

「彼? 映像?」

 理解できないのか、ソレイユはカナから出た単語をただ繰り返した。カナは言う。

「大丈夫よ、ソレイユ。私がもう一度、あなたたちの時間を繋いであげる」

 ソレイユに向かって、大きく頷いて見せた。



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