次の日、フラワーショップ・ナヤの前に、たくさんのスーツの男がやってきた。
観光客が、彼らを横目に過ぎてゆく。
しかし誰の目にも、その騒ぎの真相は分からなかった。
ただひとり、店の前の噴水近くから、そちらを見ていた少年以外は。
少年はただ黙って、不審な男たちの行動を遠目に見ていた。
店の写真を撮ってゆく者、花を押収する者、みな静かだったが、迅速に、それぞれの仕事をこなしている様子が見えた。
少年は噴水のふちに腰を下ろした。
背後に、水しぶきの音。ずっと前方からは、海の波音が聞こえてくる。
潮風に吹かれて、雲の流れが速くなる。
あっという間に日が沈み、空に冬の星座が昇る。
雲に隠れた月が、その隙間から町を見ている。
男たちが引き揚げるのを確認してから、少年はゆっくりと腰を上げた。
群衆の中に、少年が待っていた男の姿は、見られなかった。
店の中から、線の細い女性が出てきて、少年を手招く。
駆け出す少年の足取りは軽やかだった。
明るく微笑む女性の顔に、何の問題もないことが表れていたから。
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