2017
12.21

月のライン 8-1

Category: 小説


『親愛なる兄さんへ。

 兄さんの言った通り、ノエルの翌日に、たくさんの警官たちが本土から来て、自宅にいた町長を、そちらへ連れてゆきました。

 町のみんなは、どういうことか分からない、という顔をしていましたが、警官たちと一緒にやってきた、ひとりの人が、税金を横領した形跡がある、と言って、その場で町長を取り押さえました。

 そう言ったひとりの人こそ、キトの友達のラジだそうです。

 おかげでこちらでは今、次の町長になりたいという人たちが名乗り出て、町を騒がせています。

 こんなことは20年くらいなかったことです。だってみんな、前の町長を慕っていたから。

 それでも一番ショックを受けたのは、町長の息子さんです。彼は今、本土の病院で療養中。

 お父さんの罪に、心に大きな傷を負ってしまったから、と言っていました。優しい息子さんですね。

 そうそう、キトのホテルの支配人も、変わりました。

 マリお祖母さんは年のせいで、都会のほうが住みやすい、と言って、キトをおいて出て行ったの。

 今の支配人も、もともとモンフルールに勤めていた従業員の人だったし、キトも寂しくないと言っていました。私には、それが強がりだと分かってたけどね。

 そうだ。いろんなことがあって言うのが遅れました。

 じつはこの島で唯一、花の咲く場所があったの。

 前はよく分からない雑草が生えていて、ずいぶん荒れていたそうだけど、それって、アクアアルタにも浸からない場所、ってことだよね。

 私が発見したんじゃないんだ。

 キトとラジが、お店を閉めて沈んでいた私のために、見つけてきてくれたんです!

 本当によかった。だってここにタネを蒔いて、育てた花を、またフラワーショップ・ナヤで売れるかもしれないんだもの。

 花の収穫期には、兄さん、手伝いにきてくれるかな?

 兄さんの帰りを、心待ちにしています。

 ナヤより』



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