2017
11.01

おまめのぼうけん

Category: 小説


 おまめは大きな木の下で生まれました。

 まだ芽が出ないうちに、もっと景色のいいところへ根付くことに決めましたので、転がりながら移動をし始めました。

 草むらに入ったところで、水溜りにはまりました。

「ああ、もう風が吹くまで出られないぞ」

 とおまめはしくしく泣きました。

 そよ風じゃおまめの体を転がせません。

 もっと強い突風でもない限りは。



 さて、おまめは水溜りの中でしばらく泣いて待っておりますと、水溜りは涙で塩辛くなり、おまめもふやけてシオおまめになりそうでした。

 しかしその一歩手前で、草むらからシッポの長いトカゲが出てきて、おまめに気づいてくれました。

「おや、こんなところにおまめが」

 と、トカゲは言って近づきます。

 おまめは、やってきたトカゲのしっぽを掴まえることに成功したので、そのままトカゲと一緒に行くことにしました。

 草がおまめの濡れた体を拭いてくれました。

 が、乾いた涙が塩になり、どうしても離れてくれません。

 ついに、シオおまめになったのです。



 新しくなったシオおまめは、草むらから出たトカゲと一緒に、砂地に行きました。

「わしはここまでじゃ」

 とトカゲは言って、大きくしっぽを振りましたので、シオおまめは飛ばされて、岩に激突しました。

 トカゲは行ってしまいます。

 トカゲとは本来そういうものなのです。



 シオおまめは少しだけ岩に当たって、亀裂を作りました。

 岩のくぼみに入ったのでした。

 またしても動けず、自分が二つに離れてしまわないよう、両手で押さえながら、風が来るのを待ちました。

「ひどいところに来た。ここでは日差しが強すぎて、カラカラになってしまいそう」

 おまめはひとり呟きました。

 側を見回しても、誰もいません。

 おまめは日光に日焼けしてゆきました。



 おまめは長いこと待っていたので、いい感じに黒光りしました。

 ちょうどその頃、空を優雅に飛んでいたハトが、黒光りした岩陰のシオおまめを、目ざとく見つけたのでした。

 ハトはおまめが大好きですから、すぐに進路を変えて、おまめ目指しました。

 ところがよく見ると、おまめはシオおまめです。

 ハトは塩分控えめに、とお母さんに言われていたので、困りました。

 おまめは、

「ぼく、食べないで~」

 と言いましたら、ハトは、

「そうだ。塩を洗ってから食べよう」

 と思いついて、シオおまめを口ばしに挟みました。

 かわいそうにシオおまめは、空を飛ぶハトにくわえられ、川まで連れられました。

 そしてシオおまめを川につけて洗おうとしたら、突然、大きなワニが現れて、ハトを大そう驚かせたのです。

 ハトはその拍子に、くわえていたシオおまめを川に落とし、あっという間に空高く、高く、ずっと高くへと消えてしまいました。



 おまめは、

「ああ、大変だった」

 とぷかぷか浮かびながら呟きました。

 体から塩分が溶けて、また普通のおまめになったのです。

 そこへ、先ほどの大きなワニが泳いで来ました。

「おお、おまめ。ここはとても景色のいいところだぞ。お前は俺が助けてやったんだから、ここに住むことにしろよ」

 そう言われ、おまめは周りを眺めました。

 遠い空、緑あふれる山、やわらかな草地が見えました。

「よぅし、そうしよっと」

 おまめは答えたので、ワニは一息吹いて、おまめを水面から岸へ打ち上げました。

「ありがとうワニさん。ぼくは長いこと、もうずっと、こんなところを探していたんだった」

 おまめは喜んで草地に潜りました。

「どういたしまして。めんこいおまめさん」

 ワニは満面の笑みを浮かべました。

 おまめは川下へ去っていくワニを、とてもいいワニだと思いました。

 本当にいいワニとは、このことをいうのです。



 おまめの割れた亀裂から、芽が伸びて、日向に向きます。

 そして、ずいぶんと長い期間をかけて、木になり、おまめは昔、自分が生まれた場所にあった、大きな木に育ったのです。

 もう自分だけの、たくさんなおまめを実らせています。

 それらのおまめも、やがてポトリと落ちて、自分だけの旅に出るのでしょう。

 そうしておまめ、いいえ、大木は考えていますと、いつかのワニが現れました。

 ワニはあの小さかったおまめが、今や自分だけのおまめを根元に落とし、おまめたちを育てている様子を、しばらく眺めておりました。

 そしてふと、何を思ったかワニは、落ちているまだ小さなおまめたちを、食べ始めました。

 大木は、あんまり、それはあんまりじゃないか、と思って、ワニへ近づこうとしましたが、木の根が深く張っているので、もう動けません。

 悠々と食べ続けるワニを、追い払うこともできなかったのです。

 なるほど、ワニはあの時、おまめを助けてくれたのは、これが狙いだったに違いありません。

 もう大木は悲しそうに、おさないおまめが食べられるのを、見ていることしかできません。



◆ E N D






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