2017
11.20

さわやか病院

Category: 小説


 ――その病院から出てきた者は、皆さわやかになる――


 最近鬱ぎみのしー君は、その宣伝に惹かれて、さわやか病院に行くことにした。

 精神科の先生が、いい腕なのだろうか。

 しー君は病院内に足を入れた。

 その瞬間、この世とは思えないほどの、異臭がした。

 なんだか照明も薄暗く、壁のあちこちに、血の痕のような飛び散りが見える。

「本当にこんなところで、さわやかになれるのだろうか……」

 しー君は戸惑いながら、とにかく受付に向かった。

 血の気の引けるような、色白の看護師が、虚ろな目で言った。

「先生の腕は特別ですよ」



 しー君は診療室のドアを開いた。

 錆びついた金具が、悲鳴のような音を響かせて、ドアは開いた。

 先生は、玉座のような椅子に座っていた。

 その容貌は痩せこけてガリガリ、顔はまさしくドクロそのものだった。

 しー君の胸は震えた。

「こ……怖い。でも一応、診てもらわなきゃ」

 診察は古ぼけたベッドに、横になって行われた。

 先生が「では目を閉じて」と、低い声で指示したが、しー君がそれを実行するのは、三度も試みてからのことだった。

 その時、静かな病院のどこかで、「ギャー!」という悲鳴を聞いた。

 もうしー君は目を開けられず、怖々と震えた。



 先生は、何やらノートをパラパラめくり、低く話し始めた。

「地獄には、永遠の虐待が待ち受けています……。この世で善い行いをしない人間は、あの世で、悪魔に終わることのない苦しみを、味わされ続けるのです……。あなたは、今すぐ死んでも、天国へ行ける自信がありますか……? ないなら、何か一つでも、多くの善い行いをするべきでしょう……。……わかりましたね?」

「……は、はい」

 しー君は、返事をすることしかできなかった。

「では、さようなら」

「さ、さようなら……」

 しー君は急いで部屋を出て、病院から飛び出した。



 外は太陽の光で明るかった。

 しー君は、この世の明るさに感動した。

 もう、あんな怖い思いをしたくない。

 それに、死のうなんて思わない。

 しー君は、とてもさわやかな気分になっていることに気がついた。

 やはり、さわやか病院はさわやかにさせてくれたのだった。



 診察を終えて、先生は看護師に、ポツリと言った。

「多くの人をさわやかにした。だが私も、いつかはさわやかになりたいものだ」

 この仕事でお金を得ているのだから、先生はこのおどろおどろしい仕事を、辞めることはできないのだった。



◆ E N D






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