2017
12.17

月のライン 4-3

Category: 小説


 虹色の、斜めにストライプが入った派手なワゴンで、リカはその日、営業していた。

 肌寒いけれど、雲の少ない青空に、ワゴンからつけた風船が揺れている。

 丸いの、星型の、種類はさまざまだったけど、どれも同じメッセージが印刷されている。

『Happy Noel!』

 リカはニットの帽子をかぶり直した。

 ノエル当日も、この場所で販売することになっている。

 この帽子じゃ寒いかな……。

 ちらり、と後ろの教会を見た。

 ミサを終えた人々が、両開きの木のドアから流れ出る。

 高く組まれた屋根の下で、備え付けの鐘が、重い音を鳴らした直後だった。

「こんにちは、奥様」

 リカは通り過ぎる婦人に声かけを行う。

「いい天気ですね」

 会釈を交わして、人々は家路へと帰ってゆく。

 ちょうど正午だった。

 広場にはまばらに、観光客がいる程度だ。多くの人は、食事時だろう。

 リカもひとまず休憩しようと、ワゴンから伸びた風船の紐を、かき集め始めた。

 しかし遠くから歩いてくる男の顔を見つけたとたん、リカの手から風船がはなれた。

 強い風が吹きつけて、風船が空に上がってゆく。

「あっ……」

 一瞬のミスに、リカが声を上げると、近寄ってきた男はそれを声に出して笑った。

「ロイ!」

 リカは両手を腰に当てて、言った。

「大学に泊まり込みで勉強してたって、そう言ってくれればいいじゃない。もし本当にそうだったら、ね!」

 リカの半信半疑の視線を受けて、ロイは少し俯いた。

「違うのね」

 リカがそっと呟くと、ロイは一度、頷いてから言った。

「この前親父に、医者は諦めて次期、町長になれと言われた。もう20年近く務めてきたから、そろそろ跡取りを見つけたいんだろう。その時いろいろ聞いたけど、それがどんなことかは、今は言えない。この町の存続に関わる、大事なことなんだ。俺は受け入れなかった。親子喧嘩で決まりが悪くて、島に帰れなかったんだ」

 リカは眩しそうに目を細めた。

 ロイの顔の近くに太陽がある。ロイの表情がよく見えない。

「それでも俺はこの島を守りたい。自分が町長にならなくても、島のみんなには幸せでいてもらいたいんだ。俺は親父の目を開かせようと思ってる。直接言うんじゃなくて、ある方法で。効き目があるのを願うけど……」

 ロイの手がリカの腕を取り、引き寄せた。

「リカ、何も心配しなくていいよ。だけど俺のことはもう忘れてほしい。今までずっと、ありがとう」

 リカにはどういうことか分からなかった。

 ただ温かいロイの腕に抱かれて、ふと周りを見ると、言葉の通じない観光客が、リカとロイに拍手を送っていた。

 おめでとう、おめでとう、片言の単語が2人を冷やかす。

 ロイは後ろに下がりつつリカを放した。そしてそのまま振り返ることなく、来た道を戻ってゆく。

 意味の分からないまま、リカはなんだか悲しくなった。

 さっきまでロイが立っていた場所に、見たことのあるレースのリボンが落ちていた。



 どれくらいそうしていただろう。

 突っ立ったままのリカの元に、紺色の制服が走ってきた。

 メールボーイのメルだった。息を切らせて、リカに言った。

「リカ、さっき、ロイに会ったよ。親父さんと喧嘩して、帰ってきてなかったんだって。これから町長に会いに行って、ロイのことを聞いてみようか?」

「いいわよ、メル。もう会ったの。町長に聞きに行ってくれなくても、いいわ」

 リカはメルに首を振った。けれどもメルは、下げていた鞄の中から手紙を一通取り出して、

「だけど町長宛てに、配達があるんだ。ロイから直接、受け取ったんだ」

 と言った。

「見せて!」

 あわててリカが取り上げようとしたその手を、メルがぴしゃりとはたいた。

「だめ! 僕を誰だと思ってる、メールボーイのメルだぞ。宛先に届けるのが、僕の仕事だ」



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