2018
01.06

ソレイユの森 15 「森」

Category: 小説


三日経った。

食事や睡眠のために、山を下りたり登ったり、マルは一人で繰り返していた。

ソレイユのいる森が深いので、急な斜面で滑ったり、怪我をしてしまうかもしれない。

危ない目に合わせたくない、と言って、マルはカナを同行させてはくれなかった。

私なら大丈夫、そう言おうともしたが、優しい気遣いを尊重し、今は待つことにした。

カナは、自分の仕事を再開した。

山を守るバリケードの前で、人の侵入を防ぐ監視を、係員として続けた。

集中しているマルの邪魔にならないよう、連絡を取ることはしなかった。

取り合わなくても、心が離れてしまうはずがない。

秘密を共有し合うことで、前よりももっと、深くて強い絆を感じた。

私は、あの人を守っていこう、とカナは誓った。

自分の死が来るその日まで……それは、いつの日かは分からない。

この前のように、空からの火で急に殺されるかもしれない。

でも、それが死因になればいい……とカナは一人、ひそかに思う。

間違った考え方かもしれないけれど、そう願う。

この先ずっと、私は彼の近くにいるだろう。

彼と一緒に、同じ時に、同じ場所へゆくことができる。



マルは、目を閉じて座ったまま動かないソレイユに、頭を悩ませていた。

ソレイユは、薬を守れなかったことで、絶対とされていた命令がやぶられた。

何かのタガが外れた、歯車の噛み合いが取れた、他にも言い方は色々とある。

ソレイユはただ、目を閉じたまま、よく通る声ではっきりと言った。

「予期せぬデータが発生しました。プログラムを初期化しますか?」

壊れたコンピューターのようだった。

マルは、その質問に「はい」と答えれば、ソレイユがまた目を開くことは知っていた。

しかし、それは以前のソレイユではなく、何の情報も記憶もない、
マルのことさえも分からなくなってしまう、完全にリセットされたロボットだった。

ソレイユの前に立って、マルは何度か命令をした。

「目を開けろ。立ち上がれ。俺を見ろ」

しかし、命令を受理させることができなかった。ソレイユは依然として目を開けず、

「メモリがいっぱいです。情報を削除しますか?」

と、言った。

ソレイユの口から、いったい何の情報を削除するのか、選択肢が出てこなかった。

マルはその隣に腰を下ろした。

大木に背を付けて、同じように目をつむる。

大きな葉が頭上で揺れる。耳をかすめる静かな風の囁き。遠くで歌う鳥の声。

マルは、この森でずっと一人だったソレイユのことを、思った。

彼は、この大きな森で、たった一人きりで、秘密を守り続けていた。

世界中を駆け巡り、多くの人の波に流され続けてきた自分と、まるで真逆だ。

けれど、太陽によって限りなく生かされ続けるその境遇は、マルと似ていた。

孤独だったソレイユと、孤立していた自分。

寂しい思い出は、もういらない。

彼を救ってやるのは、造り出した俺の使命だ。

「削除します」

マルは言った。

ソレイユは、それから一言も発せず、目も閉じたまま、動かなかった。

ソレイユの中にあった、全ての情報が削除されたのだった。

基板は電気信号を送る機能を止め、カウントしていた時をも消した。

ソレイユは、この世から解放された。

マルは目を開けて、その顔を静かに覗いた。

やっと眠りにつくことが許されたような、安らかで、とても美しい顔だった。



◆ E N D






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