2017
12.30

ソレイユの森 8 命令

Category: 小説


 丸本はしばらく身動きが取れなかった。

 すべては、一瞬のようでいて、またスローモーションのようにも見えた。

 頭の中で疑問と恐怖が入り混じる。

 滑落した。周一さんが、事故に遭った……。

 丸本は慎重に、ゆっくりと崖に近寄って行って、下を見た。

 吸い込まれるような落差があった。その底で、うつ伏せに倒れている周一が、動かない。

「周一さん!」、丸本が何度か叫んだけれど、答えは返ってこなかった。

 携帯電話を取り出して、早口で救急車を要請したあと、丸本は足元に転がっていた、周一の鞄に目が行った。

 陽を反射する何かが見えた。かがんで手に取ると、無色の液体が入った小瓶だった。

 手作りのラベルの字を読んだ。「不老長寿における抗老化薬」。

 寿命を延ばすことのできる薬……。丸本は恐怖を忘れ、目を見開いた。

 立ち上がって周囲を見回す。誰もいない、誰にも見られていない。

 混乱する頭で、丸本は正しい判断ができなくなっていた。

 薬を隠すように、手の中に握りしめた。そして、その場から走り出す。

 荒い呼吸のまま、家のドアを乱暴に開けた。

「ソレイユ、こっちに来い!」

 叫ぶと、奥の方から「ここを動くことはできません」と言う、ソレイユの声がした。

「ソレイユ!」

 丸本は呼びながら、靴も脱がずに奥の間へ走った。

 暖炉のある部屋で、ソレイユが立っていた。丸本に向き直り、「こんにちは」と会釈した。

「来るんだ」

 ソレイユの手を引いたが、強い力で振り払われてしまった。

「何をしている」と、問いかけた丸本に、ソレイユは、

「守っています。命令は、絶対です」と、淡々と答えた。

「ソレイユ、それならお前に命令する。誰に会っても、俺のことは喋るんじゃない。その守るものの側を動くな。電池が切れるまで、停止していろ。いいか、分かったか」

 ソレイユは理解するため何秒か間をおいてから、丸本に頷いた。

「かしこまりました」

「欠陥品め……」

 言ってから、丸本はソレイユの冷たい手に、もう一度だけ触れた。

 さようなら、俺の夢……。

 手が指先から離れると、丸本の耳に、小さなサイレンの音が聞こえ始めた。

 静かな歩みで部屋を出て、玄関に向かう。

 玄関の棚の上に、自分が置いて帰った、分厚いソレイユの説明書があった。

 逃げる間際に、片手で掴んだ。



● NEXT → ソレイユの森 9 傍観者






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