2017
11.09

コード

Category: 小説


ある日私は、自分の背中からコードが出ていることに気づいた。

背中を鏡で見てみると、セロテープや接着剤で引っ付いている様子はなく、じかに生えているといった感じだ。毛のように。

私はコードの先にあるべきものを探した。すなわちプラグだ。コードがあるなら、あるはずだ。

しかしコードはただ垂れて、地面に伸びているだけで、その先は見えなかった。


コードは延々と、どこまでも伸びていた。



私は記憶を辿ったが、思い当たる節はなく、私はコードも辿ってあるいたが、その先も途方もないように思えた。

しかし辿らなくてはならない。



ドアにコードを挟みそうになって、急に私は怖くなった。

これがもしも、医療器具のたぐいだったら、私は自分から抜けた時、死んでしまうのではないだろうか。

私は恐ろしくなり、コードに気を遣って歩きながら病院を目指した。



横断歩道を渡ったところで、後ろを振り返ると、車が幾台も私のコードの上を走っていく。

私は冷や汗を出して固まった。

息をのんで見守ったが、じっとしているわけにはいかない。

私は今まで無事だったことを不思議に思った。

きっとまだ、私の知らない所で、私から伸びたコードの上を、何かが通り過ぎているのだろう。

私は、自分の背中から出たコードを、見つけ次第、手に巻いてゆけば良かったとも思ったが、もう病院はすぐそこだ。



自動ドアが、病院に入った私の後ろで閉まる。

コードを挟まれた。が、私はもう慌てない。

焦ったとして、何になるのだ。

私は後ろ手に背中を押さえた。そしてコードを掴むと、後ろを見ずに歩き出す。

コードは、押さえられた私の手により、私から外れない。

ドアの間でするりするりと引きずられながら伸びてくる。

そう、私についてくればいい。



不思議だった。

周りの人は私を見ても不審がらない。

コード付き人間は珍しくないのだろうか。

それとも、何かこれは重大な病気で、哀れんで見ないのかもしれない。

だが、何食わぬ顔で私のコードを踏みつけて歩くのもいかがなものか。

私の思いは複雑に絡んでいた。

私のコードもこの先絡まっている映像さえ見えた。



医者は私を見るなり笑みを見せた。

「大丈夫ですよ、そんなに悩まなくても」

私はぽかんと医者を見つめた。

気づいたらコードが出ているんだぞ、こんな奇妙なことなんてないじゃないか! そう怒りたかったが、医者は冷静に口を開いた。

「こんな相談を受けたのは初めてです。でも、あなたは心配しなくても平気です。体はどこも異常なく、丈夫そのものだ。気にしないで。では次の方!」

医者は私の診察を終わらせた。

私はあてにならない病院を出て、コードの続く限り、道を歩き続けようと誓った。



コードは水溜りに入っても、ショートしないかとか気にしない。

同じ所を何周も回っていたって、迷路に入ったと消極的にならない。

私は目の前に伸びるコードだけを、ひたすら無心で追いかけていた。

コードの先を見つけた時、意味を見つけられるだろう。私の体が何に繋がれているか、それが最も重要だった。

人体実験、という言葉が浮かんで、すぐに振り払った。考えつめてもキリがなく、恐ろしさに溺れるだけだと分かっていた。



私はコードに導かれて、ある大きな建物へ入って行った。

中央に小さな機械と、テレビのような画面が置かれ、側にベッドが一台あった。

小さなおじいさんが寝ていた。

手にテレビのリモコンであろう、コントローラーが持たれている。

「よし、無事に帰還できたようじゃな」

と、おじいさんが言って、コントローラーのボタンを押した。

すると同時に、私の顔が右へ向いた。

意思とは反対に、もう動かせない。

何だろう、と思っていると、目線の先に柱が見えた。

コンセントがあり、プラグが挿されている。

見慣れたコードの色。私の背中のコードだった。

ここが私の終着地点だった。



おじいさんの手がコントローラーを動かしているのか、私の顔は左右にぶれた。

視界にテレビの映像が映る。

テレビの中にテレビが見える。そのテレビの先に、さらにテレビ。

これは私の見る映像だった。

私は察した。

私はテレビカメラなのだった。

ベッドに寝ただけのおじいさんは、私を動かす。

私の顔が動き、体が移動し、視界に映る外の世界の全てのもの。

おじいさんは、それをテレビに映して眺めている。

私を病院に向かわせたのも彼だ。

私はカメラ。

機械なので、医者もいらない。医者は私をからかったのだ。

「コード付きも、もう古い。そろそろ、電波で飛ばす時代じゃ。新しく造るかの」

おじいさんはそう言って、私を動かした。

私は柱に向かって動き出す。


私が機械だとしたら、私の心はどこから来て、どこへゆこうというのだろう。


私はそれを考えようとしたが、それより早く手が伸びて、コンセントからプラグを外した。

私の視界は、暗闇となった。



◆ E N D






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