2017
12.03

ヒーローの敵

Category: 小説


宇宙から、変な敵が降って来るようになって、はや一年。

でも大丈夫。

地球には強い味方、「イズミくん」というヒーローがいたのです!



今日も人々は、宇宙からやって来る、謎の宇宙人に襲われていました。

宇宙人は、そこらへんに生えている木を投げ飛ばし、ビルを破壊し、手あたりしだいに食器を投げたりするのです。

とても危ないので、見てられません。

人々はいっせいに口をそろえて、

「助けてー! イズミくーん!」

と叫びました。

すると遠くの方から、高くジャンプしながら大股でかけて来る人影が見えました。

イズミくんです!

「やめろ、宇宙人め!」

とイズミくんが言って、宇宙人めがけて体当たりしました。

宇宙人はこけました。

がすぐに起き上がり、イズミくんに言いました。

「また邪魔をしやがって! 今日という今日は決着を付けるぞ!」

「僕が勝つに決まっている! ヒーローは負けないんだ!」

イズミくんは言い返しました。

「しかし何だって、そう毎回、毎回、降って来るんだ?」

「う、うるさい! お前に負けて、投げ飛ばされるたびに、オレは宇宙へ放り出される! だが毎回、あと一息というとこで、地球の重力に引き寄せられて、戻って来てしまうんじゃないか!」

ご丁寧にも、宇宙人はイズミくんに説明してあげました。

今回もまた、地球に降って来てしまい、ムシャクシャして宇宙人は、辺り一面の草をむしったり、被害を与えていたのでした。

そこを人々に目撃されて、イズミくんが呼ばれたというわけ。


イズミくんも、そうヒマではありません。

さっきまで、仲良しのガールフレンドとデート中だったにもかかわらず、助けを求められては断われません。

そこでちょっとばかり、イズミくんも腹を立てていたのです。

「お前がやって来た理由は何だ! さあ、教えろ!」

イズミくんが言い寄りますと、宇宙人はうろたえて、ちょっとだけ泣いてしまいました。

がそれを隠すため、両手で顔をおおいました。

すると側で見ていた人々は、

「今日のイズミくんは怖いなぁ。ヒーローっぽくないなぁ……」

と囁いたので、イズミくんはハッとして、明るいスマイルに戻りました。

「まあ、宇宙人。話せば分かるさ。さあ、きみが初めてこの地球にやって来た、その理由を聞こうじゃないか」

めずらしくイズミくんが優しかったので、宇宙人はホッとしました。

そこで、一年前にやって来た理由を、イズミくんだけに耳打ちし始めたのです。


「ふむふむ……そういうワケだったのか」

イズミくんが聞いた話は、こうです。

宇宙人も、元は自分の星に住んでいました。

しかし惑星の衝突により、星が破壊されてしまい、行き場を無くしていたところ、この、人の住める地球を見つけたのでした。

そしてその日から、宇宙人は地球を我が物とすべく、人々を怖がらせて追い出す計画を立てていたのです。

「ここに仲間を呼ぼうとしたが、仲間の姿が見当たらない。みんな、この広い宇宙のどこかで、迷子になってしまったらしい。
 だがオレ一人でも頑張ろうとした。
 地球を手に入れたあかつきに、オレは仲間を捜しにゆく!」

ですが、宇宙人は「イズミくん」という最強のヒーローに捕まってしまい、いつまでも投げ飛ばされている、ということだったのでした。


なんだかイズミくんは、宇宙人が可哀想に思えてきました。

とはいえ、イズミくんにはどうしようもありません。

住む所が無くて来たのなら、人間たちと仲良くして、一緒に生活したらどうか、と提案すべきか、それとも、早く仲間を捜しに行ってあげる方が先だ、と説得するべきなのか、悩みました。

宇宙人は今日初めて、別れ際に投げ飛ばされることがありませんでした。

「じゃあ、また……」

「うん……」

という短い挨拶で、イズミくんと宇宙人は別れ、別々の方向へ歩いて去って行ったのです。

イズミくんが帰って行ったので、周りの人々は事件が落ち着いたと見て、解散してゆきました。

人々も人々なりに忙しいので、細かいことは気にしませんでした。

とりあえず、場が収まれば良いのです。

これでしばらくは平和が続くでしょう。

そう、誰もが思っていました。

あの宇宙人本人も。

一年目にして、やっとイズミくんから解放されたのだと、考えていたのでした。

しかし―――。



ガールフレンドのふうかちゃんは、イズミくんのトレーニング場まで、お弁当を持ってやって来ました。

イズミくんは地球のヒーローですから、絶えず訓練をしておかなければなりません。

今日は、サーカスのテントで、空中ブランコの練習中だったのです。

「おーい! イズミくーん!」

と下からふうかちゃんが呼びかけました。

「お弁当持って来たよー! 一緒に食べましょー!」

喜んでイズミくんは向かいました。

高い所から、宙返りをしながら飛び降りたのです。

とっても華麗なヒーローでした。

「今日のおかずは、なに?」

「タコさんウィンナーよ!」

「タマゴ焼きは?」

「もちろんあるわよ!」

二人が並んで食べようとした時、テントの入口から、沢山の警察官がやって来て、イズミくんの前で整列しました。

「イズミくん……」

ふうかちゃんは不安でイズミくんの顔を見ました。

イズミくんは明るいスマイルをして言いました。

「今日は天気が良いから、お弁当は外で食べようね。公園で待っていてよ。きっと行くから」

「うん……きっと」

ふうかちゃんはお弁当を持って席を外しました。



警察官は言いました。

「イズミくん。きみの助けが必要だ。だがしかし、その前にいくつか質問がある。きみには勝てない相手などない、そうだな?」

「はい」

イズミくんは答えました。

「僕はヒーローです。邪魔する相手は、地球の敵です!」

「よし、いいだろう。次の質問だ。きみは地球を守るためなら、死ぬ気で戦えるか」

「はい。もちろんです!」

「次が最後の質問だ。よく聞いて答えなさい。今、この地球に、何百もの宇宙人が、落ちて来ている。地球という、いい住処を見つけて、強奪するために空から爆弾を落としているのだが、きみは行けるか」

イズミくんはよく考えるために、少し時間をおきました。

しかしヒーローのセリフはすでに決まっていました。

「僕以外に、地球を守れる人はいない!」

イズミくんは走り出しました。高々と足を上げ、大股でかけて行きました。


その途中、一人の宇宙人に出会いました。

一年前から来ている、あの宇宙人です。

「オレは何もしてない!」

と宇宙人はイズミくんの腕を掴んで言いました。

「オレはただ、そこらへんを歩いていた時、仲間の方から見つけてくれた。そして、この星は良い星だ、と言っただけだ!」

「どうして人々を追い出そうとするんだ?」

イズミくんの問いに、宇宙人は小声で言いました。

「住んでいた星に、しようと思っているんだよ。そこには、人間はいなかった……」

イズミくんは宇宙人の手を振り払って、再び走り出しました。



やって来たのは、公園でした。

ふうかちゃんが、ベンチに座って待っていました。

「じつは……」

イズミくんが話し出そうとした時、ふうかちゃんは立ち上がり、遠くの方を指差しました。

見ると、向こうの山が燃えています。

空から、沢山の爆撃を受けているところでした。

「こんなことは初めてよ。イズミくん。また地球を守りに行くんでしょう?」

ふうかちゃんは言い続けました。

「でも、今度はただの敵じゃない。あんな所へ行ったら殺されちゃう」

「だけど行かなくちゃいけないんだ。今までだって、そうだっただろ?」

イズミくんは言いましたが、ふうかちゃんは頷きません。

「私が毎回、おいてきぼりにされて、淋しくなかったとでも思う? イズミくん、いっつもそう! 事件が起こるたびに、いなくなっちゃうじゃない。そのたびに私、イズミくんが死ぬ夢を見るのよ」

「どうしたんだい、ふうかちゃん。きみがそんなことを言うなんて……」

イズミくんはちょっと驚きました。

ふうかちゃんは解かってくれているとばかり、思っていたからです。

「僕は死なないよ。ヒーローは必ず死なないんだ」

「私の夢では、何度だって殺されたわ!」

ふうかちゃんは、イズミくんを抱き留めました。

「ヒーローの邪魔をする人は、地球の敵。私、悪者になったってかまわないもの! 世界中の人に嫌われたって!」

「やめてくれ、ふうかちゃん」

ですが、イズミくんはふうかちゃんを振り払うことはできませんでした。

その間にも、爆弾はどんどん落ちて来て、この公園にまで火が燃え移りました。

「僕は地球を守りたいんだ。きみも地球の一部だから……だから……」

イズミくんは言葉が続きませんでした。

思えばいつも、ヒーローというプレッシャーに押し潰されていたのでした。

それは、いつ死ぬかもしれないということに加え、もう二度とふうかちゃんに会えなくなってしまうのではないかという、大きな恐怖があったからでした。

「ふうかちゃん……」

イズミくんは火の海の中で、ふうかちゃんに抱きしめられていることに、不思議と安心感を覚えました。

「イズミくん、ヒーローの敵は、ここにいるわ。もうどこにも行かなくたって、いいの」

ふうかちゃんが最後にそう言った時、二人の上空から爆弾が落ちて来て、二人の意識はなくなりました。

もう二度と、ふうかちゃんは悪夢を見なくてすんだのです。

ヒーローにも、勝てないものがあることを、イズミくんはこの時初めて知ったのでした。



地球全体に飛び火した、熱い炎が消えてから、宇宙人たちは舞い降りました。

そこにただ一人、爆撃をまぬがれた、最初の宇宙人がいて、その目から涙がポロポロこぼれていました。

仲間の宇宙人たちは、勝てた喜びで泣いているのかと思いましたが、最初の宇宙人は、手で隠しもせず泣き続ける理由を、誰に言うでもなく、心の中に押しとどめているのでした。


彼は、今、待っているのです。

自分の複雑な気持ちを救ってくれる、ヒーローを。

いつまでも……。

いつまでも……。



◆ E N D






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