2017
11.03

ダイヤモンドマン

Category: 小説


 大富豪の自己満足で、全身ダイヤでできた人形が作られました。

 身長1メートルほどです。

 ダイヤモンドマンと呼ばれ、大富豪は常に持ち歩きました。

 ダイヤモンドマンは精妙に作られていて、心を持ち合わせていましたので、自分を大切にしてくれる大富豪のことを大好きになりました。



 ある時、ダイヤモンドマンが自分があまりにも輝いていて眩しいので、大富豪の側でご主人の顔を見つめておりますと、大富豪はそれに気づいたのか、お付きの者にあるものを持ってこさせました。

 そしてそれをダイヤモンドマンにくれたのです。

 サングラスでした。



 大富豪はクルージングに出かけました。

 小さな船でした。

 しかし沖へ出た時、事件が起きます。

 船がサメに囲まれてしまったのです。

 焦った大富豪とお付きの者たちは、救助のヘリを要請しました。

 ヘリはすぐに飛んできました。

 世の中はどれだけお金をもらえるかで、急いだりできるのです。

 そして大富豪たちは、空から伸びるロープにしがみつきました。

 ヘリは大きかったのですが、お付きの者が多いので、最後の一人が乗れません。

 それはダイヤモンドマンでした。

 大富豪は、サメに襲われるダイヤモンドマンを、ヘリから眺めました。

 ダイヤモンドマンも、壊れていく船と沈みながら見つめかえしました。

 そして、自分が捨てられたことを知ったのです。



 ダイヤモンドマンは海の底に沈みました。

 サメに喰われても、ダイヤが硬いので傷ひとつつきません。

 そして海底で光り続けました。


 魚たちが興味を持って寄ってくるのが、はっきりと見えます。

 サングラスをなくしたせいです。


 悲しいダイヤモンドマンの胸は、不安でいっぱいでした。

 ここでは何の音も届きません。



 かれこれ3年経ちました。

 ダイヤモンドマンは体中に藻をつけて、光ることもやめました。

 そしてすべての希望をなくしかけたその時、一人のダイバーが通りかかったのでした。


 ダイバーは1メートルの藻を発見し、新種の魚かと思って、引き上げることに決めました。

 大きいので、海面にボートを止めて、網を下ろして引き上げました。

 引き上げる時に、藻が少しはがれました。

 そこで陽の光を受け、ダイヤモンドマンの希望も輝いたのです。


 ダイバーは慌てました。

「おい、ニュースになったら持ち主に横取りされちまう。謝礼金なんてしょぼい。このまま売りさばくぜ」

 と、ダイバーは仲間に言って、夜の街へ繰り出しました。


 ダイヤモンドマンにはコートを着せて、足の裏にコマを付けて引きました。

 居酒屋の一角で、ダイバーは闇の宝石商と取引をし、多額の金を受け取りました。



 宝石商は自分の店に持ち運び、誰もいないところでコートを取り、調べました。

 全身ダイヤのダイヤモンドマンです。

 こんなものは今まで見たこともありません。

 さっそく、宝石商は自分の知っている、ありとあらゆる金持ちに電話をし、競売にかけ始めました。



 最高額の高値で買い落としたのは、青年実業家でした。

 親の資産で会社を設立し、いろんな事業に手を出しています。

 その年収ははかりきれません。

 コネなんかも、わんさかあるのです。

 実業家は天下に昇りつめたお祝いに、ダイヤモンドマンを側に置くことで、権力の象徴を見せつけました。



 しかしダイヤモンドマンの心は満たされません。

 眩しくても、サングラスもかけてもらえないのです。

 希望のように見えていた光が、今や眩しいだけとなった幻のようでした。



 そしていく日か過ぎた頃、突然、実業家はダイヤモンドマンを棒で殴りつけました。

 新しく手を出した事業が失敗したのです。

 頂点を見た者は、あとは下ることしか知りません。

 腹いせに殴られたあげく、ダイヤモンドマンはまたコートをかけられ、青年と二人きりあてもなく街へ出ました。



 ダイヤモンドマンの体は傷つきません。

 心は深い傷だらけです。



 青年は昔持っていたコネで助かろうとしましたが、お金のない者には冷たいという現実を知りました。

 しばらく、路地裏で眠る日々が続いたある日、ついに、青年は見栄も権力も必要ないと察したのか、ダイヤモンドマンを売りに行くことに決めました。



 今度はどこへ売り飛ばされるのか、とダイヤモンドマンは思いました。

 自分の人生は、ただ人に買われ、人の事情で売りさばかれ、手から手へ、渡り過ぎてゆくだけなのです。


 そして、ある邸宅に着きました。

 何だか知っているような気がします。



 出てきた執事に、青年は事情を話します。

「旦那様に昔、よくしてもらいました。しかし今の僕は昔と違います。必要最低限の費用でいいので、これを買ってください。僕はそこからやり直します」

 執事は中へ通しました。

 そして話がまとまったのか、青年は一人出て行きました。



 残されたダイヤモンドマンの前に、見覚えのある顔が近づきました。

「よく帰った。どうやらこれも運命のようだ。あの日のことはすまなかったね、本当に、すまなかった」

 コートを取ってくれたその人は、最初の持ち主の大富豪だったのです。

 ダイヤモンドマンは驚きと喜びでいっぱいでした。

 そんなダイヤモンドマンに、大富豪はそっと取り出したサングラスをかけてくれたのです。



 夜のことでした。

 ひっそりと寝静まった大富豪の枕元に、黒い人影がありました。

 人影は長いロープで、大富豪の体をベッドに縛りつけました。

 驚いて目覚めた大富豪の視線の先に、コートを着せられたダイヤモンドマンの姿が映りました。

 そして人影はそれを抱えて部屋を出たのです。

「大丈夫ですか!?」

 慌てて駆けつけた警備の者が、大富豪に言いました。

「犯人の顔を見たのですか?」

「ああ、あれはたしかに……」

 大富豪は言いました。

「ダイヤモンドマンを売りに来た男だ」



◆ E N D






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