2017
12.15

月のライン 2-3

Category: 小説


 ノエル(降誕祭)が近づく季節になると、圧倒的にガラス製品が増える。

 陳列棚にもこれでもか、というくらい、積み重ねた色とりどりのオーナメント。

 お互い触れるとカチャカチャ鳴って、割れやしないかとヒヤヒヤしてしまう。

 でも、店舗が狭いので、個別に飾る場所もないのだ。

 本当は2階のほうにも並べたいけど、2階は住居で、1階よりもさらに狭いし……。

 リカは、紙の箱から取り出した、50センチほどのツリーを眺めた。

 もみの木そっくりに作られた、ナイロン製の葉が伸びている。

 両手に抱えて、表通りに張り出したショーウィンドーの中に置く。

 見本として、いくつかのオーナメント、丸いのや、尖ったのや、星型の、を、金色のリボンで吊り下げる。

 その上から、ふわふわしたやわらかで長いモールを巻きつけようとしていたら、窓の向こうに見慣れた姿が映り込んだ。

 優しい目が笑いかける。

 リカはすぐにドアに向かった。ドアを引き開けると、すぐ目の前に立っていた。

「おはよう、メル」

「おはよう。アクアアルタはどうだった?」

 聞かれて、リカは肩をすくめて見せた。

 築100年は経っているであろう、店構え。

 水が入ってこないよう、入口を木の板でガードしたけれど、またいつものように、陳列棚の下2段目まで浸水してしまう。

 ここ最近は、ストーブを焚いていても、歪んだ建物は隙間風が冷たい。

 うかない顔のリカを見て、メルは仕方なそうに笑い、「手伝うよ」と言ってくれた。

「そういえば、ロイをどこかで見なかった?」

 リカは聞いた。

 ロイというのは、この町の町長のひとり息子で、リカやメルとも幼なじみ。

 本土の同じ小学校にも通った仲だ。

「さぁ、最近、見かけないな」

「こんな日はよく、手伝いに来てくれてたのに……」

 リカはレジカウンターの奥に行き、壁に貼り付けてあるカレンダーを見た。

 たしか前回の満月の日には、来てくれた。一緒に荷物を棚上げしてくれた。

 でも、それから一度も見ていないような……。

「おかしいなぁ。島に毎日来ているメルも、ロイを見かけないなんて……」

「本土に行っているのかもしれないな。ロイは勉強に熱心だから」

 メルの言う通り、ロイは昔から博識だった。将来は医者になりたいと言っていたほどだから。

 でも、とリカは思う。

 何も言わずに行っちゃうなんて……。

「町長さんも、何も言ってなかったよ。今度、聞いてみようか」

「お願い」

 リカはメルに頷いた。



 メルが来て10分もしないうちに、最初のお客がやってきた。

 海沿いに店を構える、フラワーショップ・ナヤの店員、ナヤさんだった。

 このナヤという店名は、彼女のお父さんが、彼女が生まれる前から、気に入って付けた名前だったが、お父さんは病気で倒れ、かわりに、ナヤが店に立っている。

 文字通り、ナヤのナヤが来たわけだ。

「いらっしゃい、ナヤさん。そうだ、ナヤさんのお店、アクアアルタは大丈夫でした?」

 リカがカウンターから出てきて言った。

「うちは被害はなかったわ。ちょっとだけ浸入したみたいだけれど、兄が水はけをやってくれたし」

 ナヤは何も心配なさそうだった。

 ナヤの兄は、本土から自分の店に、生花を仕入れる仕事をしている。

 メルも時おり、フェリーの中で姿を見たことがあると言っていた。

 落ち着いた、30歳くらいのおとなしい人だ。

「今日はブーケ用のリボンを買いに来たんだけれど、いつもの、レースの柄、あるかしら?」

「はい、ただいま」

 元気に応えたリカは、ふとメルと目を合わせた。

 メルは控えめに微笑むと、ドアの方へ歩いて行った。

 心の中で、またね、と呟き、リカはリボンを探しにかかった。

 あっ、そうだ。レースのたぐいは、まだ2階だ。

 もー、店長ったら、私だけに仕事押し付けて、いつまで下りてこない気かしら。

 ふくれっつらをしたリカの目の先に、不意にショーウィンドーのツリーが映った。

 形よく、ゆるやかに、長いモールが巻かれていた。



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