2017
11.02

最有力候補

Category: 小説


「今回、全世界中で、お米に合うものは何か、という議論が起きました。最も自分が合うと立候補される皆さんは、前へ進み出てください」

 裁判官のような、低い声が言いました。

 するとすぐあとから「それはわたしだ」とか「いや、おれだ」という勢いのある声が飛び交いました。

「まぁ、静粛に」

 と裁判官は落ち着いて言います。

「まず、一人ずつ、自信がある者から前へどうぞ」

「ではわたくしが」

 真っ赤な顔のうめぼしでした。

「皆さん、異議はないでしょう。わたくしうめぼしですよ。うめぼしといったらお米。これなくしては、おにぎりという歴史もくつがえさせられるでしょう」

「ふむ、たしかに……」

 みんな、異論はありませんでした。

 しかし、しばらく唸ったあとで、静かに、前へ進み出た者があります。

 腹黒いのりです。

「ぼく、のり。おにぎりのまわりを補強し、崩れないよう、固めてあげてるのはだれだ。ぼく、のりだ。中でぬくぬくしているうめなんかよりも、力持ちだし、塩分控えめだし」

「ちょっとまった!」

 小さな連中が手を上げました。

「ふりかけだよ! やっぱり、何といってもふりかけだよ! お米がなけりゃ、おれたち、どこへふりかけろっていうのさ!」

「いや、コンブだ」

「ばか言え」

「サケに決まってる。サケフレークにもなったんだぞ」

「うるさい」

「くわれちまえ」

「ねぇ、やっぱりお米により接近できる子が最も似合う者じゃなくて?」

 と言ったのは水婦人です。

「私、水だけど、お米を炊くときたっぷりいるわ。そのおかげで、お米もふっくら仕上がるわけよ」

「そんなこと言ったらおかずというワクを超える」

「あら、おかずを決めてるんじゃないわ。よりお米に寄り添って生きる者よ」

「じゃあシャモジだ」

 平べったい顔が立ち上がりました。堂々としています。

「ほくほく仕上がりたてに、真っ先に触れるからな。はっはっはっ」

 みんな、意表をつかれて、口をつぐみました。

「さて……」

 裁判官が立ち上がり、みんなに姿を現します。

「結論が出たようだな」

 その姿はハシでした。

 ハシは、誇らしげにするシャモジを見て、こう言いました。

「それでは今から、お前はワシと競いおうてもらうぞ。どちらがより、お米にとって必要か、米自身に問いかけてみよ!」

 バチバチ!

 ハシは自分を鳴り合わせました。

 奥の薄暗闇から、その音を聞いて、つやつやお米たちがやってきました。

 一同、目を向けます。

 お米たちは互いに寄り添い合って、モジモジとしています。

「ぼくたち……」

 お米たちは小さな声で言いました。

「ぼくたち……納まるところが一番落ち着きます……」

 その瞬間、お米たちを乗せていたお茶碗の顔が、一同の目に輝いたのです。

「なんとあのお茶碗が!」

「では、あのお茶碗が?」

「あの、お米を乗せることしか役目を持たないお茶碗が、一番お米に合うということか」

 ハシは感心して、お茶碗の顔をまじまじと見つめました。

 お茶碗はいつもと変わらず、平然としてお米たちを乗せているのでした。

 そして「何を当然のことを言っている」とでも言わんばかりに、ふんっと笑って、お米たちを乗せて帰って行ったのです。



◆ E N D






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